「なんの音楽聴いてるの?」
昨日置いて帰ったというのに、茅森はなんの躊躇いもなく話しかけてきた。
「先生にバレるとイヤホン没収されちゃうよ。放課後まで返ってこないから気をつけないと」
茅森の明るさは余計に俺の暗さを引き立たせる。そのせいもあって普段は俺に目もくれないクラスメイトたちがじろじろと視線を送ってきていた。
「おーい、私のこと見えてる?」
無反応な俺に対して、茅森は自分の存在をアピールするようにひらひらと手を振ってみせた。
昨日はたまたま堤防の前を通りかかり、たまたま俺のことを目撃して善意を働かせただけだと思っていた。なのに茅森は今日も積極的に俺との距離を詰めようとしてくる。
「……あのさ」
言いかけたところで、教室に本鈴が鳴り響いた。
……よかった。チャイムに助けられた。
「じゃあ、出席とるぞ」
担任が教壇に立つと、茅森を含むクラスメイトたちはバタバタと自分の席に着いた。もちろん俺は最初から着席していたので微動だにせず、窓際からの景色をぼんやりと見ていた。
新学期ごとに行われる席替えのくじ引き。一番後ろだったらいいなという俺の希望は虚しく散って、窓際の前から二番目になってしまったけれど、こうして窓のほうを向いていれば自分だけの世界は作れるので、わりと気に入っている。