もしかして人気者の彼女に付いていったら負けとか、声をかけられて舞い上がっていたら罰ゲームとか、陰キャラな俺をはめようと誰かが仕組んでいるのではないかと考えた。
一応周りを見渡してみたけれど、人の気配はない。だだっ広いところなので、隠れられそうな場所もなかった。
「あ、移動するのが面倒ならそこの駅でもいいよ。中にベンチとかあったよね?」
仕組んでないとすると、ますます怪しすぎる。だって茅森が俺にかまう必要性はどこにもない。
「心配とかしてくれなくていいよ」
俺は素っ気なく言い放ち、堤防から飛び下りた。もちろん海側ではなく道路側にだ。
「え、ま、待ってよ。私も下りる!」
俺みたいにジャンプできないようで、彼女はおそるおそる中腰になっていた。
そんな状態になるなら、登ってくるのだって大変だったろうに。その行動は、ますます茅森を怪しく見せた。
手を貸せばどこまででも付いてきそうだったので、俺は茅森を置いてそのまま歩き去った。
だらりとしなっている電線にオリーブ色のアオバトが止まっていた。希少で謎めいている鳥らしいけれど、わりとここら辺ではよく見かける。
……鳥は翼があって羨ましい。
羽を広げて飛びたてばすぐに別の場所へといける。
俺も早く飛びたってしまいたい。なのに、今日も失敗だ。