高校に入学して半年。誰とも馴れ合うことなく過ごしている中で、彼女の印象といえばとにかく騒がしいというイメージしかない。

紺色のブレザーに赤いリボン。スカートから伸びている足は細くて白い。俺の胸辺りしかない身長の彼女はとても小柄だけれど、学校では存在感を放っている。

欠点を見つけるのが難しいほどの愛らしい顔立ちは男子にも女子にも人気で、彼女はいつも人に囲まれている。

どこにいても目立つ彼女と、教室の隅でひとりでいることが多い俺に接点なんてあるはずがなく、むしろ話したこともない。

それなのに茅森は今、俺の背中にぴたりと張り付いたまま動こうとしない。

「あのさ、とりあえず離れてくんない?」

表情に出さなくても動揺はしていた。人に抱きつかれたのは生まれて初めてだったから。

「やだ。だって悠生くん海に飛び込もうとしてたでしょ」

さらに彼女は俺の身体をきつく絞めてきた。

ただ下を覗こうとしていた可能性もあるというのに、茅森は俺の自殺願望に気づいているような口調だ。

それだけ誰の目から見ても危うく見えるということだろうか。

そもそもクラスの人気者である彼女に名前で呼ばれていることにも驚いている。

「離れてくれないと身動きとれないから」

制服の上からでもわかる華奢な手首。どう扱っていいのか戸惑いながらも、しがみついていた彼女の身体をそっと引き剥がした。