「窓、開けていい?」
「いいけど」
俺の返事を合図に、茅森は雪をよく見るために窓に手をかけた。その瞬間に真新しい空気が工房に流れてきた。
「小樽の雪って、ガラスみたいにキラキラしてて、なんだかあったかいよね」
そう言って、彼女は手のひらを空に向けた。落ちてくる雪は茅森の体温ですぐに溶けて水に変わっていた。
「それって体感的にってこと?」
「違うよ。小樽の雪そのものがあったかいの。ほら、悠生くんも触ってみてよ」
誘導されるように俺も窓の外に手を伸ばした。でも手のひらに落ちてきた雪は当然冷たくて、暖かさは感じられなかった。
「今年の冬は長いかな。短いかな。どっちだろう」
それは雪深いかどうかを聞いているのか、それとも春が来るのが遅いと言われている小樽の街のことを差しているのか。
尋ねようとしたけれど、茅森は遠くの空を見つめるような視線をしていた。
そのビー玉みたいな瞳の中に、スノードームのような雪がパラパラと舞っている。柔らかいけれど、どこか切なくも見える彼女の横顔はやけに綺麗だった。
「なあ。俺たちって前にどっかで会ってる?」
気づくと、そんなことを聞いていた。なんで聞いたのかは、自分でもわからない。
「へへ、どうかな」
茅森ははぐらかすように笑った。
窓から入ってくる雪風がランプの炎を揺らす。
消えることのないオレンジの灯火は、とても優しい色をしていた。
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