じいちゃんがいないと聞いても帰る気配のない茅森は、そのあと工房内を見学するように見始めた。

「ガラス作りに使う道具ってたくさんあるんだね」

彼女が見上げている視線の先には、壁に沿うようにして並べられているラックがある。

そこにはカラフルなガラス棒に、自分の好きなデザインが描ける転写シート。他にもくもりガラスを加工するためのサンドブラストや板ガラスを熔かしてアクセサリーなどを作るフュージングという電気炉もある。

色々と作るものによって使う機械も技法も違うけれど、ガラス工芸に興味がないと覚えづらい横文字ばかりだ。

英語は不得意だけれど、ガラスに関することならすんなりと頭に入る。きっと生まれた時からガラスに囲まれているおかげだろう。

茅森の視線が離れている間に、俺は作業台に腰かけた。卓上型のエアバーナーを準備して青白い炎を調節していると、茅森が近づいてきた。

「その銀色の棒に溶かしたガラスを巻き付けて、くるくる回すんだよね?」

まだなにを作るか言ってないのに、なぜか茅森は分かっているようだった。

「とんぼ玉、作ったことあんの?」

「うん。昔、一回だけ」

「ふーん」

とんぼ玉は穴の開いたガラス玉のこと。トンボの複眼に似ていることから名付けられたと聞いている。

ガラスの街と呼ばれている小樽に住んでいても、ガラス作りをしたことがない人は大勢いる。そんな中で、茅森はガラスに関心があるように感じた。

人によって違うけれど、俺の場合はとんぼ玉作りに慣れているので二十分あれば完成する。

その作業中、邪魔だけはしないからと約束して茅森はずっと隣で見ていた。