「暇じゃないし、面倒くさい」
そもそも顔が広い奥野だから呼ばれるんであって、誰とも話したことがない俺が参加しても周りが気を遣うだけだと思う。
「尾崎ってバイトとかしてんの? 家、ガラス工房だろ。もしかしてガラス作れんの? 俺もガキの時に一回だけ体験したことあるけど、あれってセンス必要だよな! 昔グラスを作ったら細長くなっちゃって、結局ペン立てにしたわ」
奥野はペラペラと楽しそうにしていた。
質問に質問を重ねて、俺が一言も喋ってないのに話し続ける感じが、茅森と似ている。なにかを言い返せばこのまま懐かれる可能性があると思ったので、俺はそそくさとカバンを肩にかけた。
「なんだよ。無視かよ。で、バスケ部は行く? めちゃくちゃ美人の先輩いるぜ」
奥野がわかりやすく鼻の下を伸ばしていた。
「興味ないから帰る」
「……たく、つれないやつだな」
ぶつぶつとぼやきながらも、奥野は美人の先輩目当てで、そのまま体育館のほうへと向かっていった。
結局、俺は職員室にも行かなかった。明日もどうせ英語の授業があるし、怒られるならその時でいい。
昇降口で靴を履き替えて校舎を出ると、体育館からすでに楽しそうな声が漏れてきていた。
学校は勉強以外のことを学ぶ場所でもあるなんて、よく言われているけれど、俺はそこが一番欠けていると思う。きっと俺は誰かと楽しいって思う気持ちを分け合うことができないのだ。
『悠生くんはそうやって人を線引きすることで自分を守ってるんだね』
茅森に言われた言葉は悔しいけれど当たっていた。
心が満たされてしまえばあの日のことが遠くなる。それだけは許されないような気がしている。