空を飛んでいる海鳥(かいちょう)とテトラポッドに打ち寄せる波をぼんやりと眺めた。

漁船は何隻かあるけれど、飛び込んで波にうまく乗れたら、きっとすぐに発見はされないだろう。

そんな危うい考えが、ずっとずっと頭の中にある。


六年前のあの日から、ただ惰性で生きているという感覚しかない。だから俺は日課のように堤防に立っては海を見てしまうのだ。

覚悟はある。あとは勢いだけ。なんとなく今日はいけそうな気がする、と堤防から右足を出した。……と、次の瞬間。

悠生(ゆい)くん、ダメ……!」

大きな声とともに、突然後ろから誰かに抱きつかれた。

風に乗って漂ってくる甘い匂い。背中から伝わってくる温かい体温と、腰回りを覆うようにして掴んでくる力は痛いくらい強かった。

ビックリして俺は堤防の半分まで出ていた足を引っ込める。確認するように振り向くと、そこにはクラスメイトの茅森玲奈(かやもりれな)がいた。