「私、屋上って初めて来たよ。こんなに眺めがいいんだね」
物思いに耽っていると、茅森は俺と並ぶようにして手すりに触れた。
糸みたいにサラサラとした黒髪が風の流れる方向に揺れている。こうして彼女のことをまじまじと見ると、やっぱり同級生の女子より可愛い顔立ちをしていると思う。
肌は透き通るように白くて、唇はほんのりと薄紅色で、伏し目がちになるとまつ毛の長さがよくわかる。
俺とは住む世界が違うような人なのに、こうして一緒に景色を見ているなんて変な感じがする。
「もうすぐ雪が降るかな。ずいぶんと空気が冷たくなってきたよね」
茅森はそう言って髪の毛を耳にかけた。
どう考えてもどこから見ても彼女は健康的だ。教室でも友達に囲まれて、太陽みたいに明るい彼女は最も負のイメージから遠い場所にいる。
だからどんなに頭を整理させても、茅森が病気だなんて信じられるはずがなかった。