学校に着いて早々、一限目の授業をサボった。教科が苦手な英語だったということもあるけれど、また茅森に声をかけられたらと思うと教室にいる気分にはなれなかったのだ。
向かったのは見晴らしのいい屋上だった。少し風が強かったけれど、校舎の中にいるよりはよっぽど息が吸いやすい。
俺はひんやりとしている手すりを握った。瞳に映るのは、太陽の光に反射してキラキラとしている銀色の海だった。
空を飛び交う海鳥が低空飛行している様子もここからだとはっきりと見える。
「もう、悠生くん。こんなところにいたんだ!」
勢いよく屋上のドアが開いたかと思えば、茅森はやっと見つけたと言わんばかりの顔で、俺の元に近づいてきた。
穏やかで静かだった空間は、彼女が現れると一瞬で騒がしいものに変わる。すでに授業が始まっている時間だというのに、まさかずっと俺のことを探していたんだろうか。
「……なんだよ。また監視しに来たのかよ」
冷たい空気と同化するようなため息をはいた。
茅森と顔を合わせないために屋上に来たっていうのに、これじゃ授業をサボった意味がない。
「もしかして屋上から飛び降りようとしてたわけじゃないよね?」
「……べつに」
肯定も否定もしなかった。茅森から見れば俺はつねに不安定に見えるのかもしれない。たしかに死にたい気持ちは毎日あるけれど、さすがに人目につく屋上で身を投げようとは思わない。
死ぬのなら、海がいい。
海は両親の死を強く感じる場所であり、同じように生を感じることができる場所でもある。
本当は辛くてたまらないけれど、今は思い出すことでしか両親には会えない。
まだ幸せだった頃、よく一緒に海釣りをした。海水浴もキャンプもした。もう二度と同じ時間を過ごすことはないと思うと、また胸が苦しくなる。