茅森は勉強もできる。俺と違って頭がいいはずだ。だからこれだけ冷たくしていれば、もっと早くに迷惑だということを理解してくれると思っていた。
人のことを勝手に遠ざけるのは得意だけれど、寄ってくる人を突き放すのには慣れていない。本当ならこんな風に強い言い方もしたくはない。
「悠生くんはそうやって人を線引きすることで自分を守ってるんだね」
茅森のまっすぐな言葉に、俺は目を丸くさせた。
彼女は一体なんなんだろう。なんでこんなに俺に関わってこようとするんだろうか。
「うるさい。わかったようなことを言うな」
普段、感情の起伏が薄いけれど、ついムキになってしまった。迷惑してることには気づかないくせに、核心をつかれた気がして動揺している。
「じゃあ、悠生くんのことを教えてよ」
「なんで教えなきゃいけないんだよ」
「わかったようなことを言うなって言ったじゃない。私は悠生くんのことが知りたいの」
「知ってどうするんだよ。言ったところで俺にはなんのメリットもない」
いつも静かな工房内で、こんなにも言葉が飛び交っているのは初めてだ。
どうしたら茅森が諦めてくれるのかわからなくて、深いため息をつく。そんな俺の姿を見ていた茅森の唇がゆっくりと動いた。
「じゃあ、悠生くんのことを聞く代わりに、私も誰にも言ってない秘密を教えるから」
茅森はずっと組んでいた後ろ手から、炎が灯っているランプを見せてきた。
それはどこにでもあるアンティーク調のオイルランプだった。