ハッと視線をずらすと、なぜか後ろに茅森が立っていた。すぐに言葉が出てこなくて、自然と瞬きの回数が多くなる。
今日は地元民でもわかりにくい抜け道を使ったので、おそらく後は付けられていなかったはずだ。
「なんでここにいんの?」
俺はテーブルの上に吹き竿を置いた。
「ちょっと悠生くんに用があって」
「用があるなら学校で言えばよかっただろ」
小樽にガラス工房はたくさんあるけれど、この町で現在営業している店はここだけなので、茅森が尾崎工房のことを知っていても不思議じゃない。
店から工房までは繋がっているので誰でも出入りはできるけれど、許可なくズカズカと入ってきたことに驚きを通り越して唖然としていた。
「勝手に人を入れたら俺がじいちゃんに怒られるからやめて」
興味本意で触れられたら危険なものがここにはたくさんある。
店がもっと賑わっていた頃はガラス体験を受け付けていた時期もあったけれど、観光客の減少から今は行っていない。
「それならおじいさんにご挨拶させて」
「出掛けてていない」
すっかりガラスを作る気分じゃなくなってしまった俺は軍手を外した。
秘密主義というわけではないけれど、自分のプライベートなことを見せる必要はないと思っているので、バイトでガラスを作っていることもあまり知ってほしくないことだった。
わかりやすいように冷たく接すればすぐに諦めるだろうと思っていたけれど、茅森に遠回しな表現だと伝わらないことは、最近のことでよく身に染みた。
「あのさ、付きまとったりしてくるの迷惑なんだよ」
茅森の悪い評判は学校では聞いたことがない。
いつも明るく笑っていて、奧野が言っていたとおり可愛いと男子からも人気だ。
でも俺は関わりたいと思わない。距離感が近いことも、それによって感情を乱されることも面倒で厄介だ。
「そうやってお節介を焼けば男子はみんな喜ぶとか思ってる? 他はどうだか知らないけど俺は違うから」
「そんなんじゃないよ。ただ私は悠生くんのことが心配だから……」
「心配もしないでって言ったはずだだけど」
こうして言い返すことすら疲れてくる。