今日もレトロな煙突がついている古民家のわき道へと入り、人の目に触れない細道を歩いた。
そして見えてきたのは丘の上にある薄黄色の建物。屋根の上にはガラス材で作られている風見鶏がいる。
光の屈折によって色が変化する風見鶏は、海から流れてくる潮風によってくるくると回っていた。俺は静かに建物のドアノブに手をかける。
……チリンチリンとドア鈴が二回鳴り、たくさんのガラス工芸に出迎えられた。
【尾崎工房】
ここは父方の祖父が営んでいるガラス工芸の店。
ギャラリーとして置いてある作品も、土産物として並んでいる食器やグラスも、すべてガラス職人のじいちゃんが作ったものだ。
「ただいま」
店の奥にある工房に向かったけれど、じいちゃんの姿はなかった。
じいちゃんは観光地で有名なガラス館に作品を卸したりしているので、その関係で外に出ているのかもしれない。
俺は入口付近にあるハンガーラックにブレザーをかけて、同時にネクタイも外した。
身軽なワイシャツだけになり、腕捲りをしながら工房名が書かれた紺色のエプロンを腰に巻く。
裏手が自宅になっている工房には小さい頃から出入りしていて、昔からいい遊び場だった。その延長でガラス作りを教えてもらうことも珍しくなく、今では一通りの工芸品は作れる。
といってもじいちゃんみたいに職人というわけではないので、出来のいい作品を店の売場に置いて、それが売れたら小遣いが入ってくる程度のバイトを今はしてるだけ。
ガラス作りは好きだし、作っていると余計なことを考えずにいられる。
でもふと気が緩むと、幼い頃のことを思い出してしまい、そういう時には決まってガラスにはヒビが入る。