「ねえ、悠生くん。今日一緒に帰ろうよ」

クラスメイトの数が減りはじめた放課後の教室。混雑を避けるためにゆっくりと帰り支度をしていたところにまた茅森が寄ってきた。

「なんで?」

「え、なんでって、一緒に帰りたいから?」

茅森がなにを考えているかわからない。俺に話しかけてくるのが堤防の一件のせいだとしたら、あまりにもあからさますぎると思う。

「俺が海に飛び込むかもしれないから監視したいわけ?」

「だって、悠生くんまたフラフラと堤防のほうにいっちゃいそうだから……」

一緒に帰ろうなんてよく言えるものだ。茅森はあれからわざとらしく学校帰りの俺の後を付いてきている。

本人に気づかれている自覚はなかっただろうけれど、なんの刑事ドラマを見たのだろうかと思うような、電信柱に隠れながらのベタな尾行。

そのせいでもう一週間も堤防には行けていない。

「俺が死んでも茅森には関係ないだろ」

「関係あるよ!」

「……はあ、とりあえず俺には構わないで」

冷たく言うと、茅森は分かりやすく落ち込んでしまった。なんだか自分が悪者みたいで気分が悪い。


潮風の影響で錆び付いている校舎を出ると、陸上部員たちが敷地の周りを走っていた。

降雪期になればグラウンドが使えなくなるので、運動部員の声が聞こえてくるのは今だけ。

練習に汗を流している生徒たちを通りすぎて、俺はひとりでポプラ並木を歩いた。

この町は坂道が多い。日本海に面している海岸段丘があるためだ。

海岸沿いの地区と段丘上の地区との間に高低差があるので、こうして急な上り坂や階段がいたるところにある。

もっともそのおかげで、人に会いにくい抜け道がたくさんあるので、俺は普段からそれをうまく利用していた。