最近、冬の息吹きを感じるようになった。

山から下りてくる冷えた風や湿った土の匂い。スマホと繋いでいるイヤホンから流れてくる音楽も、自然としっとりとしたバラードを選曲するようになっていた。

俺は靴の底を擦るようにして線路沿いを歩く。

見えてきたのは海を囲むようにそびえている堤防だった。

あまり高くないコンクリートの壁に足をかけて、慣れた足取りで登る。潮の香りが濃い堤防に立つと、海風が勢いよく顔の横を吹きつけていった。

ここは物資が行き交う港町として栄えた小樽(おたる)の街。

現在も歴史的建造物が多く残り、ノスタルジックな雰囲気を色濃く見せる市街から、少しだけ離れた海沿いの町に俺は十六年間住んでいる。

基本的にこの海岸付近は漁業集落になっていて、住宅地は段丘上にあり、積雪対策のためにへの字屋根の家が多く並んでいる。

市街から流れるようにして観光客が海を見に来たりするけれど、口を揃えて言うのが「景色はいいけどなにもないね」だ。

たしかに自然豊かではあるけれど、記念に写真を撮っておこうとカメラを向けたい場所は少ないかもしれない。

でもこの町にはコンビニもラーメン屋もある。ゲームセンターはないけれど、インベーダーゲームができる喫茶店がある。

不便さはない。

けれど移り変わることのないこの町のように、俺の時間も前には進んでいかない。