この高校の校舎はふた棟が北と南に平行に並んだ造りをしていた。
北棟は四階建てで、各学年の教室がある。南棟は二階建てで、職員室や会議室などがある。図書室は、その南棟の端から台地の先のほうに突き出るようにある。廊下でつながっているものの、独立した建物だ。

腕時計を見ると、集合時間ちょうどの時刻だった。おそるおそる中へと入る。
外観からは二階建てに見えた室内は、実際にはずいぶんと天井が高い平屋造りだった。教室三つ分くらいはありそうなスペースが広がっている。

入り口を入ってすぐの右手側には貸し出しと返却を行うカウンターがあり、その奥は図書委員が業務を行う事務スペースとなっていた。そのさらに後方には司書室らしき小部屋も見える。

横に長く広がる空間のうち、左半分は本棚が、右半分は調べ物や学習ができるテーブルが並んでいた。

右手のテーブルにはすでに何名かの生徒が座っていた。各クラスの図書委員たちだろう。その脇に立っていた若い男性教師が僕を振り返った。

「やあ、君は何組かな」
「一組です」
「じゃあ、そこに座ろうか」

先生は長身で、春なのに日焼けしていた。見るからに活発そうなスポーツマンタイプだ。

目を合わせないまま会釈だけして、先生が指定した席に座る。
着席しているメンバーは、みんななんとなく居心地悪そうにしていた。
気弱そうな男子や、おとなしそうな女子だったり、なんで俺がこんなところに? と不満そうな顔をしている男子だったり。

ああ、やっぱりギリギリに来てよかった。あまり早く着いてもしゃべる相手なんかいないし、きっと微妙な空気になっているだろうと思っていたら、やはりその通りだった。

互いに隣の生徒に話しかける様子はなく、それぞれが手持ち無沙汰に席に座っている。僕もだれかに話しかける気はなかったので、彼らには視線を向けず、なんとなく室内を見渡した。

うっすらと漂うインクのにおいがソワソワした気を静めてくれる。
正面と左奥の壁には、手を伸ばしても届かないほどの高さまでびっしりと本が並んでいて壮観だった。ところどころに梯子が立てかけてある。

左手側から中央にかけてはずらりと本棚が立ち並ぶ。
外に面した右手は全面ガラス張りで、やわらかな日が差し込んでいた。脇には表に通じるドアもある。

向こう側にはテラスが見えた。そこにある丸テーブルに、かつての記憶がよみがえって胸が熱くなった。こんなところで涙ぐむわけにもいかず、僕は急いで室内に目をそらした。

フロアには、たくさんのテーブル。ちょうど僕たちが囲んでいるそこは、ふだんだったら熱心に本を読んだり調べ物をしたりする生徒が利用するのだろう。
一通り室内の様子を眺め終えて顔を戻したとき、先生が呼びかけた。