皆が使うから丁寧に書かなきゃと思ってちりとりに書いた「3-2」は、ぶるぶると震えた字になってしまった。

自分の下手くそな字にため息をついたら、「そんな緊張しなくていいのに」と井原さんに笑われてしまった。静かに息を吐いたつもりだったけど、教室ががらんとしているせいか、思った以上に響いてしまったのかもしれない。

井原さんはもう窓際からは離れて、自分の席に戻っていた。机の上には教科書やノートが広げられていた。


「ほんとに待ってたわけじゃないよ。最近は、放課後ちょっと残って勉強してることも多いし」

そりゃそうだ。僕がちゃんと帰ってくるか、そのためだけに教室に残っていたのだとしたら、仮にそれが井原さんの委員長としての責任感から来るものだったとしても、色々勘違いしてしまいそうになる。どうにも考えが先走る癖が僕にはあるから、なおさら危険だ。

分かっている。あくまで、勉強のついでだ。僕たち3年生は、言うまでもなく受験生だ。受験勉強に真面目に励んでいる井原さんを、僕も見習わなければならない。


「図書室とか自習室、最近混んできたんだよね。部活もみんなどんどん引退してきてるでしょ。これだけ静かなら、教室のほうが案外集中できるかも」

「確かに…そうだね」

「河野くんって部活何だっけ」

「えっと、生物部。月曜と木曜しか活動はしてないんだけど…」

「生物部…!」

「そんな部あったんだ、って感じだよね」

「うーん、そうだねー…申し訳ないけど…。でもうちの学校って、文化部かなり多いよね。細々とやってる場が色々ある気がする」

「うん。僕たちの所も全部で4人しかいないし」

「わ、さみしいね…」

「うん、でも…楽しいよ。生物部は引退とかは特になくて、勉強に集中したいと思ったら、その時が引退っていう感じで。あ、でもその後も、行きたい時には自由に顔出してもいいみたい」

「ゆるいね〜。でも私も文化部だから、まあ…ゆるさで言ったら同じ感じかも。活動日、週2なのは同じだし。一応、夏休み前最後の活動日で引退ってことになってる」

「そうなんだ。えっと、井原さんは…」

「あっ、調理部。最後の日は班ごとに作るもの決めて、皆でパーティー!みたいな。毎年恒例なの」

「そうなんだ」


井原さんも文化部なのは同じなのかもしれないけど、僕と違って運動神経もかなり良い。5月の体育祭の時には大活躍していた。

それに調理部は、文化部の中では吹奏楽部や美術部に次ぐ大所帯だ。校舎の隅っこにある生物室でひっそり活動している僕たちとは全然違う。華がある。