「いつきは戻ったのか!?」
「ミヅハ、少し落ち着きな」
瀬織津姫は、俺を諫めるといつきの額に手を当て確かめる。
「……いや、まだ向こうだね。天照の姉さん、強制的に引っ張ることは可能かい?」
「できるならとっくにやってるわよ。でも、八咫鏡に力を送りながらじゃうまくいつきちゃんの意識をこっちに繋げなくて」
さらには呪詛が目隠ししているらしく、いつきの気配を見つけても糸が切れるようにまた見失ってしまうのだと天照様が説明した。
早くしないと時間がない。
八咫鏡が映す過去の映像は、いつきと千枷と意識の影響か、映画のように途切れては繋がる。こちらの時間と比例してはおらず、実際、映像の中ではすでに一年が経過しているのだ。
しかし、こちらではまだ一時間ほど。
日付さえまたいではいない。
映像には、女官たちに介抱されている千枷の姿が映っている。
今、兼忠が、龍芳の元に向かっているなら、千枷の命が終わるのも……もう間近だ。
横たわったままのいつきの顔色は悪い。
先ほどいつきは友人の元へ向かえと言いたかったのだろうが、ここから離れている間にその時を迎えたらどうなる?
友人の元へ向かい、勾玉を探すくらいなら、須佐之男さんのところへと一瞬考えてしまうが、それはできない。
いつきは、俺がその手段に出るのを良しとせず、八咫鏡で過去を覗く方法をとったのだ。
「ミヅハ、桜乃ちゃんのところに行っておいで。もしもの時は、あたしが全力で祓う」
「ダメだ」
以前、呪詛の力を抑え込んだ影響で、瀬織津姫は今の俺よりも祓う力が弱く、回復するには何百年という時間が必要なはずだ。
何より、瀬織津姫も天照様と同様、八咫鏡に力を送っている。
そんな状態で祓えば負担はさらに圧し掛かり、間違いなく命を失うだろう。
いつきはそんな結末を望まない。
では、どうするのが一番得策なのか。