「えっ、洗濯まで!?」
「なにが不満だ。老人には親切にしろと親に教わらなかったのか」
「親切心を説くなら、左門さんも手伝ってくださいよ。お婆さんが心配で来たんじゃないんですか」
「私には他にすべきことがある」
左門が出ていき、茶の間の襖が閉められると、すぐに玄関の引き戸も軋む音がした。
不満に思う大吉だが、スエの寝息が耳に届くと、ため息をついて洗い物を再開させる。
(左門さんが身勝手なのは今に始まったことじゃないから、別にいいか。自主的にお節介を焼いたのは、僕なんだし……)
カビの生えた鉄鍋をたわしで擦り、乾いて茶碗にこびりついたご飯粒に苦戦する。
その後は大量の洗濯だ。
浪漫亭での仕事より重労働だと思う大吉であった。
それから数日後の日曜日。
学校が休みなので、いつもより二時間ほど遅い七時に起きた大吉は、柘植が作ってくれた朝飯を食べて左門の屋敷へ行く。
庭で洗濯を済ませた後は、屋敷内の掃除だ。
潔癖なところのある左門は、裸足で屋敷内に上がることを許さず、室内用の清潔な草履が用意されている。
それに履き替えて廊下の掃き掃除をした後は、雑巾とバケツを手にあちこちを拭いて回り、残すは書斎だけになる。
そのドアをノックすると、「入りたまえ」と中から声がした。
ドアを開ければ、八畳ほどの広さの洋間には、庭の緑が眺められる出窓から明るい光が降り注いでいる。
部屋の中央に立派な執務机がドンと構えており、壁には書棚、大吉の胸の高さまである鉄製の大きな金庫や、個人宅には珍しい卓上電話機も備えられていた。
茶色のベスト姿の左門は、万年筆を手に、机に向かって手紙を書いているようだ。
「書斎の掃除をしてもいいですか?」と問いかけた大吉に、左門は顔を上げずに言う。
「少し待て。掃除より君に頼みたいことがある」
「はあ……」
「なにが不満だ。老人には親切にしろと親に教わらなかったのか」
「親切心を説くなら、左門さんも手伝ってくださいよ。お婆さんが心配で来たんじゃないんですか」
「私には他にすべきことがある」
左門が出ていき、茶の間の襖が閉められると、すぐに玄関の引き戸も軋む音がした。
不満に思う大吉だが、スエの寝息が耳に届くと、ため息をついて洗い物を再開させる。
(左門さんが身勝手なのは今に始まったことじゃないから、別にいいか。自主的にお節介を焼いたのは、僕なんだし……)
カビの生えた鉄鍋をたわしで擦り、乾いて茶碗にこびりついたご飯粒に苦戦する。
その後は大量の洗濯だ。
浪漫亭での仕事より重労働だと思う大吉であった。
それから数日後の日曜日。
学校が休みなので、いつもより二時間ほど遅い七時に起きた大吉は、柘植が作ってくれた朝飯を食べて左門の屋敷へ行く。
庭で洗濯を済ませた後は、屋敷内の掃除だ。
潔癖なところのある左門は、裸足で屋敷内に上がることを許さず、室内用の清潔な草履が用意されている。
それに履き替えて廊下の掃き掃除をした後は、雑巾とバケツを手にあちこちを拭いて回り、残すは書斎だけになる。
そのドアをノックすると、「入りたまえ」と中から声がした。
ドアを開ければ、八畳ほどの広さの洋間には、庭の緑が眺められる出窓から明るい光が降り注いでいる。
部屋の中央に立派な執務机がドンと構えており、壁には書棚、大吉の胸の高さまである鉄製の大きな金庫や、個人宅には珍しい卓上電話機も備えられていた。
茶色のベスト姿の左門は、万年筆を手に、机に向かって手紙を書いているようだ。
「書斎の掃除をしてもいいですか?」と問いかけた大吉に、左門は顔を上げずに言う。
「少し待て。掃除より君に頼みたいことがある」
「はあ……」