それが終わってから、絵を携えて函館に帰る予定だと聞いている。
『この絵は、今までのお礼にもらってや』
電話口で弥勒がそのように言ったそうで、浪漫亭のホールに飾ると左門が話していた。
(有名な展覧会の受賞者なんだから、今後はきっと絵が売れるはず。貧乏脱出どころか金持ちだ。よし、今度、弥勒さんに、純喫茶で売ってるワッフルをねだってやろう)
額縁にはたきをかけ終えた大吉は、木の踏み台からピョンと飛び下りた。
すると、やけに小気味いい音が響く。
床下に妙な空洞でもあるような音だ。
首を傾げて足元を見つめる大吉の側に、清と幸治も「なんだ?」と近寄った。
靴底で床板を叩いて確認すれば、やはり他の場所と違う響き方をする。
「この下に、隠し収納庫でもあるんじゃないか?」
幸治がそんなことを言い出すから、大吉は好奇心を掻き立てられた。
しゃがんで板の継ぎ目に爪を引っ掛け、引っ張ってみたが、開けられない。
それで机上から物差しと算盤を持ってきた。
板の隙間に物差しを差し込んで、立てた算盤を支点とし、テコの原理で床板を外す。
思った通り、そこには収納空間があり、雑誌と書籍が数冊しまわれていた。
「こ、これは……!?」
本を取り出した大吉は、目を丸くした。
女体解剖図鑑、大江戸春画集、遊郭婦人案内などという、いかがわしい題名の読み物ばかりだ。
全校生徒を前に、壇上から挨拶する校長は、威風堂々として立派な口髭を蓄えた五十六歳の紳士である。
まさかこのような卑猥な本を隠れ読むような人には見えず、大吉は衝撃を受けていた。
三人は顔を見合わせて、うろたえる。
「校則に、勉学に不要の物は持ち込み禁止と書かれているのに、信じられないな」
「校長先生も、普通のおじさんだということか」
幸治と清がそのように話し、「この本、どうする?」と問いかける声が重なった。
「覗いてみたい」と真顔で言ったのは、大吉だ。