斜め後ろの四人がけのテーブルに、三人の外国人男性が座って食事中であった。
浪漫亭の客に、外国人は珍しくない。
もう少し坂道を上った先には、英国領事館があり、そこの職員達は常連である。
この元町地区には外国人が神父を務める教会も複数あるし、港には西洋からの貿易船も停泊する。
穂積が声をかけた相手は英国領事館の職員で、大吉にも見覚えがあった。
(日本語を少しだけ話せる人達だから、僕でも注文を取れる。それ以外の英語の会話には、さっぱりついていけないけど)
彼らはにこやかに、「オイシイ、オモイマス」と片言の日本語で答えていた。
そのあとは英語で話しだす。
穂積は英語が堪能なので、皿の料理を指差しながら、四人で談笑している。
授業で英語を習っていても、早すぎてなにひとつ聞き取れない。
弥勒も「盛り上がってまんな」と言うだけで、わからないようである。
すると左門が通訳してくれた。
「スコッチエッグはイギリス料理だ。家で母親が料理してくれたものを思い出す。懐かしいと、右側の彼が言っている」
母国の家族を思い出せるから、浪漫亭に通っているらしい。
「ビーフシチューを食べている彼は、柔らかな肉質に興味を持ち、どこで育てている牛なのかと穂積に聞いている。それと、ライスカレーを食べている彼は……」
領事館員の三人は穂積に、様々な感想を伝えてくれる。
褒め言葉のみではなく、改善を求める意見もあった。
ライスカレーは彼らにとって少々辛いらしく、もう少しまろやかな味付けにした方が良いという希望だ。
それを聞いた大吉はムッとする。
(僕にはちょうど良い辛さだぞ。この前、来店した子供だって美味しそうに食べていた。カレーなんだから、香辛料をきかせて当然なのに、なにを言っているんだ)
左門は穏やかな声で通訳しており、不満に思わないようである。
「怒らないんですか?」と大吉が問えば、諭される。