「君達が落とした花瓶は、フランスのガラス工芸作家、エミール・ガレの作品だ。彼は陶器や家具のデザインも手掛け、その生涯で多くの作品を生み出した。ガレの生まれは……」
なぜかガレという外国人について、生い立ちから聞かされる。
大吉はその名を聞いたこともなかったが、弥勒は知っているようだ。
額に浮かんだ玉汗を袖で拭い、独り言ちる。
「やはりガレの花瓶やったか。危なかった……」
左門の説明によると、花瓶はパリで開催された万国博覧会に出品されたものなのだそう。
黒い鯉が大きく描かれ、梅や桜を散らし、日本的な雰囲気がある。
大吉は、淡々と話す左門に怯えつつも、フランス人が日本的な図柄を採用したわけを知りたくなる。
「なぜ……」と呟けば、弥勒が小声で教えてくれる。
「ジャポニズム、言うてな。西洋では日本の浮世絵なんかが流行ってたんや。江戸から明治にかけての話やで。ゴッホやモネも強い影響を受けてはる。知ってるやろ?」
「ゴッホ……?」
画家の名前だろうかと推測する程度で、ゴホゴホと咳き込む老人の姿を思い浮かべてしまった。
それほどまでに美術品に関して知識も興味もない大吉なので、作家や作品について解説されるより、数字で教えてくれた方が価値がわかりやすい。
それで、ガレについての講釈の切れ間に、おずおずと尋ねる。
「左門さん、あの、この花瓶の値段は……?」
弥勒がそれを聞いてはいけないという目を向け、小刻みに首を横に振っている。
(この部屋にあるものが高価なのは知っているけれど、もしや僕の想像を超えているのか……?)
冷や汗をかく大吉の前で、左門が足を止めた。
琥珀色の瞳に見据えられ、ごくりと喉が鳴る。
「割った時のために、弁償額を知りたいというのか?」
ニヤリと口の端を上げて問い返してきた左門に、大吉は寒気を感じた。
なぜかガレという外国人について、生い立ちから聞かされる。
大吉はその名を聞いたこともなかったが、弥勒は知っているようだ。
額に浮かんだ玉汗を袖で拭い、独り言ちる。
「やはりガレの花瓶やったか。危なかった……」
左門の説明によると、花瓶はパリで開催された万国博覧会に出品されたものなのだそう。
黒い鯉が大きく描かれ、梅や桜を散らし、日本的な雰囲気がある。
大吉は、淡々と話す左門に怯えつつも、フランス人が日本的な図柄を採用したわけを知りたくなる。
「なぜ……」と呟けば、弥勒が小声で教えてくれる。
「ジャポニズム、言うてな。西洋では日本の浮世絵なんかが流行ってたんや。江戸から明治にかけての話やで。ゴッホやモネも強い影響を受けてはる。知ってるやろ?」
「ゴッホ……?」
画家の名前だろうかと推測する程度で、ゴホゴホと咳き込む老人の姿を思い浮かべてしまった。
それほどまでに美術品に関して知識も興味もない大吉なので、作家や作品について解説されるより、数字で教えてくれた方が価値がわかりやすい。
それで、ガレについての講釈の切れ間に、おずおずと尋ねる。
「左門さん、あの、この花瓶の値段は……?」
弥勒がそれを聞いてはいけないという目を向け、小刻みに首を横に振っている。
(この部屋にあるものが高価なのは知っているけれど、もしや僕の想像を超えているのか……?)
冷や汗をかく大吉の前で、左門が足を止めた。
琥珀色の瞳に見据えられ、ごくりと喉が鳴る。
「割った時のために、弁償額を知りたいというのか?」
ニヤリと口の端を上げて問い返してきた左門に、大吉は寒気を感じた。