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「えっ」
初めて聞くその声は、想像以上に高く可愛らしかった。どこまでも女の子らしい彼女に少し心を動揺させながらも、なるべく声を冷静にと意識する。
「いや、様子がおかしかったんで具合悪いのかと。バスで酔いましたか?降ります?」
「え、あ……」
彼女は目をいつも以上に真ん丸くして、それから顔を真っ赤に染めた。
「あああすみません、違うんです!これ、読んでいたら展開が辛くて、切なくて。読むのも苦しいくらいだったんです。すみません、なるべく顔に出さないようにしてたんですけど……」
手に持っていた本を軽く掲げ、顔を赤らめながら申し訳なさそうに謝ってきた。
こんなことでごめんなさい、くだらないですよね。
そう言いかねないような瞳で。
そんな今でも、まだ少し表情は苦しそうに見えた。
「……ああ、なんだ。良かった、安心した」
「えっ?」
「今日、いつもより人多いから、酔っちゃったのかと思ったけど。何でもなくて良かった。それより、そんなに心持っていかれちゃったの?」
これ以上申し訳なさを感じられると、こっちも申し訳なくなる。心配の中には下心だって少なからず入っていた。自分の中のちょっとした罪悪感もあり、さりげなく話を変えてみた。本当は余裕のあるふりをして、憧れの彼女と話せているこの状況にかなり興奮している。
「えっあ、はい。そうなんです、この本の作者さんが大好きで。平易な文章なのに奥が深くて、表現が繊細で。昨日、新作が発売されたから早速読んでいたんです。この作者さんの作品では、心の温まるお話や小さな恋愛のお話が多いんですけど、新作は今までと全然雰囲気が違くて。内容に衝撃を受けたのもそうなんですけど、この方はこんなジャンルの引き出しも持っているんだって、衝撃を受けちゃって。だから、色んな意味で驚いちゃったんです。やっぱり憧れは憧れのままで、この作者さんの作品を読めば読むほど引き込まれるんです」
熱い瞳、真っ直ぐな黒。ここまで一気に熱弁して、彼女はようやくはっと我に返った。
「あ、す、すみませんいきなり。こんな話をしても迷惑ですよね」
彼女はまた顔を少し赤らめて謝り、手にしていた文庫本をきゅっと握った。
けれど、今、俺も衝撃を受けたよ。
今までのことなんか頭になく、思考より先に言葉が飛び出た。