あんまりガッツリ食べると夕飯に響くし、かといって飲み物だけだとおなかは満たされない。よし、スムージーなら少しはおなかにたまるだろう。
男一人でも難なく入れるカジュアルスタイルのカフェに入る。並びながら、スムージーの味選びをぼうっとしていると。
「……あ」
「……いらっしゃいませ」
白いシャツに黒のサロンエプロン、それから髪を低位置で一つにしばった彼女――雨さん。
思わぬ遭遇に頭が真っ白になったが、胸に『栗原』と書いたバッチを付けていることから、ようやくこのカフェの店員だと分かった。いきなりのことに頭の回転が少々鈍った。
大学生だからそりゃあバイトだってするだろうけど、雨さんからそんな話を聞いたことがなかったし、ましてやこんな身近な場所でバイトしているとは思わなかった。
「店内でお召し上がりですか?」
「……何時に上がりますか?」
「え?」
俺の質問返しに雨さんは面食らったような、まごついたような表情を見せた。
何度もデートを重ねてきた。二人の時間を大切にしてきた。その重ねた回数分、今の俺には勇気がある。
元々、恋愛には消極的だった。自信なんてまるで持てなかった。
それでもこれだけ言動に移せるのは、今までの雨さんの反応に偽りがないと信じられるから。言葉に真摯なように、行動にも真摯だから。自分の気持ちを信じて動く人だから。
「あと30分で上がります。お客様、どうなさいますか?」
「アイスティーのSサイズを一つ。30分で飲み干します」
今日の予定は変更だ。席に着いたら、夕飯は要らないと自宅に連絡をしよう。


 ○


「でも本当にびっくりしたよ、アキラくんがバイト先に来るなんて」
「俺もびっくりしたよ。夕飯、誘っちゃって大丈夫だった?」
「うん、大丈夫。パスタ美味しかったよ、ごちそうさま」
近くのイタリアンレストランでカルボナーラを食べた後、雨さんの要望であの森林公園に向かうことになった。
本当は、俺がいるとしても夜の暗い公園に女の子を連れていくなんて危ないと思って止めたのだが、どうしてもあの場所から夜景を見てみたいと言ってきかなかった。雨さんからの要望は珍しいから、俺は受け入れるしかない。
その代わり、公園に入ってから上に着くまで、手を繋いで離さないという条件で。ああ、絶対手汗かいてるなあ。
雨さんを怖い目には遭わせないという使命感と、雨さんと手を繋いでいるという緊張感では、若干緊張感が勝るのだから、緊張で滲む手汗は仕方がない。