「あれ、暁が本読んでるなんて珍しいな」
「ああ、浩太郎」
帰りのバスで一人、雨さんから貸してもらった小説に読みふけっていたところに、大学の友人が声をかけてきた。
同じ大学でも、学部は理工だ。サークルが同じで知り合い、意気投合するにはあっという間で、未だに仲良くしている。
相変わらずインテリ雰囲気むんむんの縁ありメガネをくいっと上げている。
「お前、外では読まないって言ってたよな」
「何でそんな昔に言ったこと覚えてんの」
浩太郎は鋭いほど記憶力がいい。侮ると痛い目に合うから余計なことは言わないほうが身のためなのだが、話しやすい人柄なのでつい相談してしまうのだ。
現に、浩太郎は友達が多い。寄って来る女の子も多い。
「そうだ、夏に海行ったんだろ?その子とはどうなの?」
「おかげで楽しんでもらえたみたい。前より距離は縮まった……と思いたい」
あれから何度か出かけ、前より親しく話せるようになった。何気ない日常の話も出来るようになった。
少しずつ、雨さんが心を俺に預けてくれるようになった。それが一番嬉しい進展だ。
雨さんに貸してもらったこの本が読み終えたら、感想を雨さんに伝えたい。そうやって、少しずつ俺も本や言葉について語れるようになりたい。
本当の意味で、雨さんの隣に並びたいんだ。
「暁、その本の作者はな、名前からして女だと思われがちだが、実は男の人が書いてるんだ」
「そうなんだ」
「話のネタやったんだから、頑張れよ」
「……ありがとう、浩太郎」
浩太郎にはお見通し、というわけか。
やっぱり侮れない。ありがたい、侮れなさだ。


 ○


学校が始まったばかりだというのに、日本列島に台風が近々接近するらしい。その影響か、今週は長雨のようだ。
仲良くなってから、雨さんはバスに乗ると迷わず二人掛けの席に腰掛けるようになった。ありがたく、その隣に腰を下ろす。
バスの中では、日によってすることは違う。
読みたい本があるときは何も喋らず気ままに本を読むし、読み終えた本の感想を言いあうこともある。今日は後者だ。