やっと決めたようだった。雨さんは俺の方に体を向け、覚悟の出来たような真っ直ぐな瞳で俺を射抜く。
雨さんが秘密を話してくれるなら、俺もきちんと受け止めたい。
俺も雨さんの方に体を向け、正面から向き合った。
「私、本が好きなの。それは読むだけじゃなくて、書くことも。それは小さい頃から今までずっと。私、趣味で小説を書いてるの」
「雨さん、読むだけじゃなくて書いてるの!?」
「えっう、うん。自分でも、言葉から世界を作りたくて」
「そっか、雨さんは本当に言葉が大好きなんだ。凄いなあ。雨さんの紡いだお話、いつか読んでみたい」
「え!」
雨さんの口から紡がれる言葉でさえ魅力を感じるんだ。手の先から綴られる小説なんて、魅力がないわけがない。
「でも、どうして秘密なの?」
「恥ずかしいから。周りにずっと言えなかったの。だから、アキラくんに言っても大丈夫かなって、引かれないかなって心配だった」
「どうして引くと思ったの?自分で物語を作るってすごく素敵なことだよ。」
「アキラくん……」
「でも、どうして俺に話してくれたの?」
今まで誰にも言えなかった秘密のはずなのに。それを、どうして俺に。
「私……今まで周りに本好きな人があまりいなくて、ずっと誰かと語り合いたくて仕方なかったの。アキラくんは私の言葉をきちんと受け止めてくれるから、それが嬉しくて。こうやって色んなところに連れて行ってくれるのも、色んなものを見せてくれるのも、嬉しかった」
「雨さん」
「だから、アキラくんになら私の秘密を話してもいいかなって」
俺は雨さんの家族でもない、恋人でもない。ただの友達だ。それでも、こんなに信頼してくれるこの事実が、愛おしくてたまらない。
生憎俺には秘密にするほどのものが今はない。けれど、もし誰にも言えない秘密が出来た時には、雨さんにこっそり打ち明けて、聞いてもらおう。俺も、雨さんなら信頼できるって、軽率にもそう思ってしまう。
「話してくれてありがとう」
「こちらこそ、聞いてくれてありがとう」
恋人ならここで雨さんを抱きしめられるのに。
代わりに俺は、行き場のない手を隠して笑顔をひとつ浮かべた。