「え?」
「だめだよ、今日はおごってもらってばっかりだもん。アイスくらい、私が出すよ」
「何言ってるの。俺はいつも雨さんに本の話を聞かせてもらってるから、そのお礼だよ」
「でも、私は話してるだけだよ」
「じゃあもっと聞かせて。俺はもっと聞いていたいから」
今日ばかりは譲れない。押してみたら、雨さんは渋々受け入れてくれた。
勿論、男だから格好つけたいという理由もある。でも何より、本当に雨さんには感謝しているのだ。この感情に偽りはない。
抹茶とゆずレモンを一つずつ受け取り、浜辺へ向かう。日が傾いてきたこの時間にはもう昼間の賑わいはあまりなく、散歩や夕涼みに来ている人たちしかいない。砂に腰掛けるのは気が引けたので、手前の階段に腰を下ろした。
「わ、溶けるの早い」
「美味しい?」
「うん、美味しい」
キンと冷えたアイスが口いっぱいに広がる。ゆずレモンは爽やかな味だった。
真っ先に抹茶を選んだあたり、抹茶が好きなのかな。雨さんはまた美味しそうにアイスを口に運ぶ。
段々と日がオレンジに染まっていく。海の色も同様に染まっていく。吹き抜ける風は、昼間とはまた違う、優しさを含む風。
アイスを食べ終わり、お互い何を言うこともなく、目の前の海を眺めた。目の前の海だけを見ると、世界でたった二人きりのような錯覚に陥る。それだけ海は、雄大に広がっている。
時折雨さんの顔をちらりと盗み見ると、落ち着かないのか、目が泳いでいた。
何かを考えているような、そんな瞳。
こちらから無理に聞き出すのも、と気付かないフリをした。
「今日は楽しかった?」
その代わり、今日一番気になっていたことを問う。
「うん、すごく楽しかったよ。連れてきてくれてありがとう」
にこり、いつものように笑う雨さんの笑顔はやっぱりどこか変で。聞いてしまおうか、そう考えたところにようやく雨さんは口を開いた。
「あのね、アキラくん。話したいことがあるの」
そう切り出した雨さんは、今もなお言うか悩むような表情。
「うん、雨さんの話なら何でも聞くよ」
悪いことじゃなければいい、それだけを願って話を聞くことにした。雨さんが膝の上でこぶしをぎゅっと握ったのが、分かった。
「私、誰にも言ってないことがあるの。誰にも言えない秘密が」
「秘密?」
「うん……」