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「全然、眠れなかった……」
男は単純だ。
雨さんとデート、そう思えば目は覚めるばかりで。結局、明け方少し眠ったくらいで睡眠は殆ど出来なかった。
でも、不思議なことに体は疲れていない。むしろ、元気が湧きでてくる。
お気に入りのポロシャツを引っ張り出し、しわがないかよく確認する。女の子も身だしなみには細心の注意を払うと思うが、男だって同じである。自分から誘っておいて、だらしない格好なんてしたくなかった。
待ち合わせは大学の最寄駅。家を出ると、汗が滲むほどの日差しがでていた。
元々は晴れ男だ。大学のある日は雨を願ってばかりいたが、こういう外出の日は晴れでなくちゃ困る。
「あっアキラくんおはよう!早いね、着くの」
待ち合わせの場所に15分前に着いたが、雨さんはその数分後に現れた。
ギリギリ先に着いたことになる。
今日の雨さんは、シフォン素材のトップスに裾の長いスカートを身に纏っていた。柔らかいそのシルエットは、とても雨さんらしい。
早速、電車に乗って目的地へ向かう。雨さんと電車に乗るのは、これが初めてだ。
とりとめもない話をしながら移動の時間を楽しむ。
「アキラくんは車乗らないの?」
「乗るよ、親が車使わない時は車でドライブしてる。ごめんね、車が良かった?」
「あっ、そういう意味で言ったわけじゃないよ!アキラくん、車好きそうだなって思って」
「うん、今日も車の方が楽だと思ったんだけど、いきなり男の車に乗るのは怖いかなと思って」
「そっか、気遣ってくれてありがとう」
いつか乗らせてね、なんて言葉は雨さんからはまだ出てこないし、俺もいつか乗ってねなんて言えない。雨さんとは、じっくり時間をかけてお付き合いしたいと思っているので、そこまで焦りはない。
むしろ、それまでに中古でもいいから自分の車を買えるようにしたいなと思うくらいだ。その時は、雨さんに助手席に一番に乗ってもらいたい。
そんな話をしているうちに、目的の駅に到着した。
「わあっ、すごく気持ちいい天気だね!」
雨さんは嬉しそうに外に出た。
まずはランチだ。雨さんが前から気になっているというお店に向かうことにした。駅からそのお店はさほど遠くないらしい。自然と情緒溢れるこの街並みを散策しながらお店に向かうことにした。