「凄い……凄い綺麗だね!知らなかったなあ、こんなところからこんな絶景が見えるなんて!」
「雨さんがそこまで喜んでくれたならよかった」
「喜ばないはずがないよ!」
雨さんは手すりに手をかけ、身を乗り出して景色にのまれるかのように、その光景に目を奪われていた。その瞳は海に負けないくらい、キラキラとしている。
初めて、本以外でここまで無邪気に笑顔を零すところを見れた。その横顔は本当に楽しそうで。連れてきてよかったと、心から思うほどだ。
今なら、今なら言えるかもしれない。掌に握る小さな勇気が、背中を押してくれるかもしれない。
「いいなあ、あの海に行きたいなあ」
「雨さん。今度俺と、あの海を見にデートしませんか」
「えっ?」
「恥ずかしいけど、俺は雨さんと同じ位置で言葉の世界を語ることはまだ出来ない。本の世界は雨さんの言葉を聞くことしか出来ない。でも、外の世界なら連れていくことも見せてあげることも出来る。だから、これからもこうやって外に連れ出したい。連絡先、教えてもらえませんか」
思ったことを口にしてから、ちょっと硬くなりすぎたと後悔した。雨さんが体をこちらに向け、傾聴してくれているから尚更だ。告白と何ら変わらない気もして、心の中で少し焦る。
これに乗ってくれなかったら、望みはないよなあ。割と大きな賭けをしてしまったことにも、気付く。
鼓動の速さがおさまらない中、雨さんは柔らかい表情で口をひらいた。
「……はい、喜んで。私をデートに連れて行ってください」
「え?」
「今日ここに連れてきてもらって、とっても嬉しかったの。だから、またアキラくんとお出かけしたい。連絡先も、勿論教えます」
にこり、微笑むような笑みをひとつ落とす。そんな表情に、ようやく心が落ち着いた。
早速、携帯を取り出してアドレスを交換する。
この時間帯に来て良かった。熱をもった頬は、きっと西日が隠してくれている。
「夏休み。楽しみにしているね」
雨さんの頬も、少しでも染まっていてくれたら。そんな淡い期待を抱かずには居られなかった。