翌日、講義が終わった理太郎はすぐに、いつもみんなが集まる練習室に向かった。
ドアを開けると、いつものメンバーがノートパソコンを取り囲み、昨日の録画を見ていた。
リーユーシェンの姿もある。
理太郎に気づくと、メンバーたちは立ち上がり、理太郎を笑顔で出迎えた。
「おかえりー!」
「感動したよー!」
「大成功だったね!」
「よかったやん!」
「すごい盛り上がったね」
普段、人を誉めなさそうなサイトーまで、明るい言葉をくれた。
「あぁ。すっげー楽しかった!」
理太郎がドヤ顔で自慢気に笑った。
部屋の奥に進み、鞄と二胡を置いた理太郎に、ぷりんが詰め寄った。
「ねぇ、約束覚えてる?今度は私たちも一緒に演奏するって」
「あぁ、覚えてるよ」
理太郎は鞄から、印刷した楽譜を引っ張り出し、ぷりんに渡した。
「何?これ」
「新曲」
「はやっ!」
「帰りの飛行機の中で考えてた」
他のメンバーも楽譜を覗きこむ。
「二胡に、ドラムに、サックス、キーボード、グロッケン……」
「チェロ、ギター……めちゃめちゃ楽器あるじゃん」
あははっと理太郎は笑った。楽譜を読んで行くと、この後、さらに楽器が増える。
「だから、お前らの力借りたいなって」
理太郎は少し、視線を泳がせ、照れながら話しだした。
「考えたんだけどさぁ……なんか、今、なんとなーく集まって、演奏してるじゃん?」
「うん」
「これから、もっと、こういうの続けていきたいなって思ってて……その、ちゃんとグループ名的なの決めて、やってきたいなって……。で、もっと曲作って、お前らと完成させて、お客さんに届けたい。普段、音楽に触れる機会が少ない人に、音楽、届けられるようなことをしていきたい……から……」
「うん」
「で?」
「……で、一緒に、俺と、マジで、活動してしかないか……?」
「やりたい!」
「いいねぇ!」
「楽しそう!」
「楽団結成?かっこいい!」
ぷりんたちは顔を見合わせ、喜んだ。
理太郎は、ホッとしたように、息をついた。
全身暑い。
ぷりんが言った。
「じゃあ、じゃあ、理太郎が団長だね!」
「団長?」
「だって、楽団のトップは団長でしょ?」
「だんちょ!」
「だんちょ!」
けにやんやクラーラが音の響きを楽しむように、何度も叫んだ。
「じゃあ、副団長はお前だな!」
理太郎がリーユーシェンを指さす。
「私ですか?やります!」
「ね、ね、サークルとして、申請しよう!」
「じゃあ、写真撮らなきゃ……」
「プロフィール写真的な?」
「そうそう!」
「その前に名前じゃない!?」
「名前かぁ……」
「ワールドワイドなのがいいんじゃない?」
「どんなんや(笑)」
「あと、撮影用のいいカメラも欲しくない?」
これからの活動を楽しそうに話す友人たちに、理太郎は視線を向けた。
「ありがとな」
照れた素振りもなく、落ち着いた顔で、その場の全員に聞こえるような声だった。
一瞬、みんな驚いた顔をして、理太郎を見つめたのち、ぷりんが嬉しそうに笑った。
「なんだ、素直にお礼言えるんじゃん」
「成長したわね」
「いや、今までも、お礼くらいちゃんと言ってただろ」
「かるーく、流されるようにしか言われてない気がする……」
「そんなことねーよ……感謝してるよ、いっぱい……」
また少しごにょごにょと口ごもらせる。
「じゃー、その気持ちは今後の行動と結果で、見させてもらいましょうか」
クラーラがムフフと笑う。
「おう、もちろんだ」
「楽しみねー」
「期待してまーす」
みんなが楽しそうに笑った。
リーユーシェンと目が合った。自分と同じように笑っていた。
「楽しくなりそうですね」
「だな!」



【400字程度のあらすじ】
音大生の理太郎は、中国の伝統楽器である二胡(にこ)の音色に魅せられ、こっそり音大の練習室で弾いていた。
それを中国からの留学生、リーユーシェンに聞かれてしまう。
リーユーシェンは二胡奏者ということもあり、友好的に話しかけるが、理太郎は中国も、中国人も嫌いだと言い放つ。

大学の教授が企画したオーディションをきっかけに、二人は次第に仲良くなった。
二人は公園で、二胡を演奏するようになる。
たまたま公園にいた人がお客さんになり、自分たちの演奏を楽しんでもらえていると感じる理太郎たち。
演奏を動画サイトに投稿すれば、中国の人からも、たくさんのコメントが寄せられた。
理太郎は嫌いだったはずの中国でも、二胡を演奏してみたいと思うようになる。
日本や中国の友人たちに応援され、中国の公園での演奏が実現した。
最後に、自分の作曲した曲をリーユーシェンと共に弾ききった。
そのときもらった拍手は、日本でもらった拍手と同じだった。