予定していた12月21日。
理太郎は寝坊せず、無事飛行機に乗り、中国に着くことができた。
上海は、東京より少し暖かかった。
空港から出ると、リーユーシェンの後について電車に乗った。
着いたのはリーユーシェンが所属する大学だった。
校内はとてつもなく広かった。
大きめの練習室に案内される。
重い防音のドアを開けると、
以前、中国に来たときに、理太郎の歓迎会を開いてくれたリーユーシェンの友達たちが出迎えてくれた。
事前に、リーユーシェンが連絡してくれたため、理太郎の今回の旅の目的を把握していた。
「久しぶり!」
「中国で演奏するんだって!?」
「そのために、お金貯めたりしたって聞いたよ!」
「すごいよね!来てくれてありがとう!」
リーユーシェンが笑った。
「伴奏とか、いろいろ手伝ってくれるそうです」
「あ、あぁ、あはは……」
聞き取れないレベルの早口で、中国人の友達の圧に押され、理太郎は歯切れの悪い返事をし、苦笑いした。
「俺、そんな二胡がうまいわけじゃねーし。そんな派手に手伝ってもらっても、盛り上げられるかわかんねっつーか……」
リーユーシェンに強めの力で、両肩を叩かれる。日本語で叫ばれた。
「大丈夫です!盛り上がります!!」
「大丈夫だよ!!」
「一緒に頑張ろうよ!!」
「そんな心配そうな顔すんなって!」
リーユーシェンの友人たちも口々に何か叫びだした。
さすがに、こんな同時に何人もしゃべられると、何を言っているかわからない。
お、おぉと中途半端な返事をする。
その様子にやっと、友人たちはしゃべるのをやめた。
恰幅のよい男子学生がゆっくりとしゃべった。
「俺らは、投稿された理太郎たちの日本での演奏、ずっと見てたんだ。成功する、誰もがそう思ってる。協力させてくれ」
「……サンキュー」
それ以上、気の効いた言葉が思いつかず、理太郎は、小さくお辞儀した。
リーユーシェンが時計をチラリと見た。
「時間がありません!さっそく練習しましょう!」
「あぁ」
恰幅のよい男子学生が、また声をかけた。
さっきから、他の学生たちからリーダーというあだ名で呼ばれていた。
「伴奏を、俺らでやりたいと思ってるんだけど、どうかな?」
「あぁ、それは、あったら有難いな」
「ただね、俺らのメンバーの中では伝統楽器みたいな琵琶や揚琴(ようきん)、笛とかを専門的にやってる人はいないんだよね」
「あ、それは大丈夫。伝統音楽っぽい雰囲気じゃない曲もたくさん用意してるから」
少し話し合った結果、練習時間が少ないため、基本的にはエレクトーン一台が伴奏に入ることになった。
練習時間に余裕があれば、曲によっては、他の楽器も入れてみる予定だ。
エレクトーンは一台で音階を出すはもちろん、ドラム音なども出すことができる万能な電子楽器だ。
「エレクトーンうまい子いるんだよ」
みんなが見つめる視線の先には、ヤンイーイーがいた。
理太郎とアニメのBGMで盛り上がった彼女は、音大でエレクトーンを勉強していた。
すこし、緊張した表情だ。
「あの、できるだけがんばるね!」
「よろしくお願いします!」
理太郎が声を張り上げ、お辞儀をした。
その声量に若干驚きながら、両手を握ってもう一度、理太郎を見上げた。
「あんまり、即興とかは得意じゃないけど……できるだけがんばるから!」
「ありがとう!」
まっすぐ見つめる黒い瞳に、勢いで抱きしめそうになるが、なんとかどどめ、理太郎はさっそく鞄を漁った。
たくさんの楽譜の束をヤンイーイーに渡す。
少し驚いた表情をしている。
「これ、全部やれって言ってるわけじゃないからね!」
「う、うん!」
「この中で、エレクトーンの伴奏を入れたい曲の優先順位をつけたら?」
後ろからリーダーが楽譜を覗き込んだ。
「そうだな!つーか、演奏したい曲もまだ確定できてねーし。曲順も決めなきゃな!」
若干、興奮気味の理太郎にリーユーシェンが声をかけた。
「理太郎、落ち着いて。暫定でいいので、ある程度決めましょう。ちなみに、途中で俺のソロの曲欲しいです」
「お、おぉー……」
自信と余裕を感じる表情に、理太郎だけでなく、まわりの友人たちまで、感嘆の声を上げた。
そして、数分時間をもらい、曲順とエレクトーンの伴奏が欲しい優先曲の順位をつけた。
弾きたい曲が山ほどあり、実際、理太郎はまだ迷っていた。
ヤンイーイーが楽譜を手にとり、立ち上がった。
「えっと、二胡と合わせる前に、少し、練習していいかな?」
「うん」
「30分くらい。隣の部屋でやってるね」
そういうなり、イーイーは隣の練習室へと向かった。
今度は、2、3人の男子学生が立ち上がる。
「じゃあ、俺らで昼飯買ってくるよ」
「なんか、食べたいのある?」
「えっと、肉まん的なの」
「俺、マンゴーラッシーが飲みたいです」
リーユーシェンのピンポイントの要求に、友人は軽く顔をしかめる。
「マンゴーラッシー!?」
「福原くんは?」
「米系でっ!」
「りょーかい」
今度は女子学生が二人立ち上がった。
「じゃあ、私たちでイーイーが見やすいように楽譜整えてくるね!」
「画用紙、いっぱい余ってるから、それに貼ろう!」
「福原くんたちは?いる?」
「俺は大丈夫。ほとんど頭入ってるから」
「俺も」
「了解」
リュウシィンイーが、ツァオニーに声をかけた。
「じゃあ、私たちは、中国語で出すタイトルとか用意しよう」
「簡単な曲紹介も入れたいね」
リーユーシェンの友人たちは、瞬く間に役割分担をし、それぞれ動きだした。
「他にも、やって欲しい雑用あったら、遠慮なく言ってね」
リュウシィンイーが理太郎に小さく笑った。
もうありがとうございますしか言えず、各々動き出してくれた友人たちにお礼を言いまくった。
その熱量と行動力に理太郎は若干、圧倒される。
「みんな、やる気満々だね。じゃら、俺らは、預かったカメラの使い方確認したり、配信テストしてみるから」
リーダーを含む3人の男の子が、ぷりんが用意してくれた機材の入った鞄を取った。
「なにかわかんなかったら、カメラの持ち主のぷりんってやつが対応するから、電話してみてくれ!英語はペラペラなはずだから」
「OK!」
残された理太郎にリーユーシェンが声をかけた。
「理太郎」
慌てたように振り返ってしまった。
「俺らはどうする?二人で合わせる?」
「……んー、そうだな」
ランチタイム。
買ってきてもらった屋台の食べ物をならんだ。
リーユーシェンは買ってきたマンゴーラッシーを満足気に飲んでいた。
食べながら、軽い打ち合わせをする。
リーダーが理太郎に声をかけた。
「案外、どの曲も完成度高いね。もうちょっと、楽器増やしてみる?」
「あー、そうだな。後半に弾きたい曲で増やしたいの、ある」
「じゃあ、みんな昼メシ終わって、みんな落ち着いたら、確認してみようか」
「あぁ、ありがとな」
ボソッと要望を伝えると、リーダーを中心とした人たちが、段取りをしてくれたり、アドバイスをしてくれたりしてくれた。
今までの人生の中で、理太郎は一番お礼を言っている気がした。
まだ名前も覚えれてない男の子が、理太郎に声をかけた。
「あ、そうだ。友達に見に来るように誘っとくね!」
「まぁ、でも、いいよ。そんなに知り合い誘わなくて」
「なんで?」
「まぁ、なんだ。あんま、知り合いとか、サクラとかじゃなくて、たまたまその場に通りかかった人をさ、いいな、聞いてみたいなって足を止めさせてみたいんだよなー」
理太郎の発言に、一瞬周りのみんなは固まった。
しかし、すぐにおぉーと声が巻き上がった。
「かっこいー!」
「自信満々だな!」
「いや、まぁ、そうなったら、いいなって話!」
理太郎は、思いの外、反応が大きかったため、恥ずかしそうに頭をかいた。
「始めて30分経っても、誰も立ち止まらなかったら、サクラ呼んでくれ」
理太郎は手早く食べ終わり、楽器を手にし、チラっと隣の部屋を覗いた。
ヤンイーイーがエレクトーンに向かい、必死に練習していた。
理太郎が部屋に入ってきたことも気づいていない。
理太郎は邪魔しちゃ悪いかなと思いつつ、近寄っていった。
「どう?」
「わっ、理太郎くんっ」
イーイーは目を丸め、手を止めた。
「驚かしてごめん。お昼ごはん、ちゃんと食べた?」
「うん。食べたよ。あ、えっと……このアレンジ、すっごいかっこいいね!」
イーイーが楽譜を指さした。理太郎がアレンジした一曲だ。
「サンキュー。弾きづらいとことかない?」
「ううん!ないよ!他の曲も、みんな弾きやすい!
ただ、テンポが速い曲は、まだ指がついていかなくて……」
「どころどころ、手抜いてもらってもいいし」
「やれるだけやるよ!あったほうが、絶対かっこいいし!」
理太郎が楽譜を覗き込んだ。
「この曲、一回弾いてみてくれる?」
「うん!」
自分も椅子に座り、二胡を構えた。
「いくよ」
ヤンイーイーは一生懸命演奏を始めた。
ほとんどの曲は二胡の前に自分の前奏から始まる。
前奏がつまづくなんてことの絶対にないよう、細心の注意を払って演奏しなければいけない。
やや固い、ヤンイーイーのエレクトーンに乗って、理太郎の柔らかい二胡の音色が入ってきた。
ヤンイーイーは、一瞬、体がふわりと飛んでいきそうになるが、こらえ、鍵盤を強く推した。
もっと、二胡の邪魔にならないように弾きたいのに、体が緊張してしまう。
1フレーズ弾くと、理太郎が声をかけた。
「あ、一回いい?」
「うん」
ピタっと演奏を止める。
理太郎が経つと、ヤンイーイーのほうへ歩いてきた。
「あ、そこ、違ったなー」
理太郎の長い腕が、ヤンイーイーのすぐ目の前を通り、左腕近くの鍵盤を押した。
音が鳴る。自分の心臓の音かと思った。
顔が近い。自分のすぐ右上にある。
理太郎の低い男性的な声が耳元で響いた。
「こんな感じでやってもらっていい?」
「……え?あ、うん!」
理太郎がきょとんとした顔で見てきた。ふっと笑う。
「少し、休憩しようか。デザートにシュークリーム買ったって言ってたけど、食べた?」
「あ、ううん。まだ……」
「食べといでよ。その間に楽譜書き直しておく」
「ありがとう。助かる」
イーイーは顔を赤くさせたまま、立ち上がると、隣の部屋へ急いで走っていった。
夜2時。
当たりは真っ暗になっていた。
微かに星空が見える。
「あーーーーーー!!練習足らなーい!」
誰かが叫んだ。
広い大学構内に響き渡る。
最後まで残ってた理太郎、リーユーシェン、ヤンイーイーをはじめ、数人の学生たちがぞろぞろと出てきた。
不安と疲労が入り交じった顔のヤンイーイーを理太郎が覗きこんだ。
「大丈夫か?ぶっ続けでやったから、だいぶ疲れたよな?」
「う、うん。でも、楽しかったよ!明日が楽しみで今日は寝れなさそう」
「俺も。家どこ?遠い?」
メガネをかけた男子学生が振り替える。
「あ、俺、バイクで来てるから、送ってくよ」
「え!?じゃー俺は!?」
隣でひょろっとした男の子が声を上げた。
「お前は走って帰れ」
ガーン!という顔をして、さっそく走るようにストレッチを始めた。
なんか懐かしいやり取りに少し、体がほころぶ。
理太郎はもう一度、空を見上げた。
青い夜空が広がっていた。
気分が高揚して、眠気も疲労も全く感じてなかった。
「明日か……」
結局、バタバタして、ぷりんたちに連絡できていなかった。
こんな時間にLINEでも送ったら、怒られるかな。
「んじゃ、俺らここで」
駐輪場に行くというメンバーが振り返った。
「あぁ、明日、よろしくな」
「がんばろうな!」
理太郎は寝坊せず、無事飛行機に乗り、中国に着くことができた。
上海は、東京より少し暖かかった。
空港から出ると、リーユーシェンの後について電車に乗った。
着いたのはリーユーシェンが所属する大学だった。
校内はとてつもなく広かった。
大きめの練習室に案内される。
重い防音のドアを開けると、
以前、中国に来たときに、理太郎の歓迎会を開いてくれたリーユーシェンの友達たちが出迎えてくれた。
事前に、リーユーシェンが連絡してくれたため、理太郎の今回の旅の目的を把握していた。
「久しぶり!」
「中国で演奏するんだって!?」
「そのために、お金貯めたりしたって聞いたよ!」
「すごいよね!来てくれてありがとう!」
リーユーシェンが笑った。
「伴奏とか、いろいろ手伝ってくれるそうです」
「あ、あぁ、あはは……」
聞き取れないレベルの早口で、中国人の友達の圧に押され、理太郎は歯切れの悪い返事をし、苦笑いした。
「俺、そんな二胡がうまいわけじゃねーし。そんな派手に手伝ってもらっても、盛り上げられるかわかんねっつーか……」
リーユーシェンに強めの力で、両肩を叩かれる。日本語で叫ばれた。
「大丈夫です!盛り上がります!!」
「大丈夫だよ!!」
「一緒に頑張ろうよ!!」
「そんな心配そうな顔すんなって!」
リーユーシェンの友人たちも口々に何か叫びだした。
さすがに、こんな同時に何人もしゃべられると、何を言っているかわからない。
お、おぉと中途半端な返事をする。
その様子にやっと、友人たちはしゃべるのをやめた。
恰幅のよい男子学生がゆっくりとしゃべった。
「俺らは、投稿された理太郎たちの日本での演奏、ずっと見てたんだ。成功する、誰もがそう思ってる。協力させてくれ」
「……サンキュー」
それ以上、気の効いた言葉が思いつかず、理太郎は、小さくお辞儀した。
リーユーシェンが時計をチラリと見た。
「時間がありません!さっそく練習しましょう!」
「あぁ」
恰幅のよい男子学生が、また声をかけた。
さっきから、他の学生たちからリーダーというあだ名で呼ばれていた。
「伴奏を、俺らでやりたいと思ってるんだけど、どうかな?」
「あぁ、それは、あったら有難いな」
「ただね、俺らのメンバーの中では伝統楽器みたいな琵琶や揚琴(ようきん)、笛とかを専門的にやってる人はいないんだよね」
「あ、それは大丈夫。伝統音楽っぽい雰囲気じゃない曲もたくさん用意してるから」
少し話し合った結果、練習時間が少ないため、基本的にはエレクトーン一台が伴奏に入ることになった。
練習時間に余裕があれば、曲によっては、他の楽器も入れてみる予定だ。
エレクトーンは一台で音階を出すはもちろん、ドラム音なども出すことができる万能な電子楽器だ。
「エレクトーンうまい子いるんだよ」
みんなが見つめる視線の先には、ヤンイーイーがいた。
理太郎とアニメのBGMで盛り上がった彼女は、音大でエレクトーンを勉強していた。
すこし、緊張した表情だ。
「あの、できるだけがんばるね!」
「よろしくお願いします!」
理太郎が声を張り上げ、お辞儀をした。
その声量に若干驚きながら、両手を握ってもう一度、理太郎を見上げた。
「あんまり、即興とかは得意じゃないけど……できるだけがんばるから!」
「ありがとう!」
まっすぐ見つめる黒い瞳に、勢いで抱きしめそうになるが、なんとかどどめ、理太郎はさっそく鞄を漁った。
たくさんの楽譜の束をヤンイーイーに渡す。
少し驚いた表情をしている。
「これ、全部やれって言ってるわけじゃないからね!」
「う、うん!」
「この中で、エレクトーンの伴奏を入れたい曲の優先順位をつけたら?」
後ろからリーダーが楽譜を覗き込んだ。
「そうだな!つーか、演奏したい曲もまだ確定できてねーし。曲順も決めなきゃな!」
若干、興奮気味の理太郎にリーユーシェンが声をかけた。
「理太郎、落ち着いて。暫定でいいので、ある程度決めましょう。ちなみに、途中で俺のソロの曲欲しいです」
「お、おぉー……」
自信と余裕を感じる表情に、理太郎だけでなく、まわりの友人たちまで、感嘆の声を上げた。
そして、数分時間をもらい、曲順とエレクトーンの伴奏が欲しい優先曲の順位をつけた。
弾きたい曲が山ほどあり、実際、理太郎はまだ迷っていた。
ヤンイーイーが楽譜を手にとり、立ち上がった。
「えっと、二胡と合わせる前に、少し、練習していいかな?」
「うん」
「30分くらい。隣の部屋でやってるね」
そういうなり、イーイーは隣の練習室へと向かった。
今度は、2、3人の男子学生が立ち上がる。
「じゃあ、俺らで昼飯買ってくるよ」
「なんか、食べたいのある?」
「えっと、肉まん的なの」
「俺、マンゴーラッシーが飲みたいです」
リーユーシェンのピンポイントの要求に、友人は軽く顔をしかめる。
「マンゴーラッシー!?」
「福原くんは?」
「米系でっ!」
「りょーかい」
今度は女子学生が二人立ち上がった。
「じゃあ、私たちでイーイーが見やすいように楽譜整えてくるね!」
「画用紙、いっぱい余ってるから、それに貼ろう!」
「福原くんたちは?いる?」
「俺は大丈夫。ほとんど頭入ってるから」
「俺も」
「了解」
リュウシィンイーが、ツァオニーに声をかけた。
「じゃあ、私たちは、中国語で出すタイトルとか用意しよう」
「簡単な曲紹介も入れたいね」
リーユーシェンの友人たちは、瞬く間に役割分担をし、それぞれ動きだした。
「他にも、やって欲しい雑用あったら、遠慮なく言ってね」
リュウシィンイーが理太郎に小さく笑った。
もうありがとうございますしか言えず、各々動き出してくれた友人たちにお礼を言いまくった。
その熱量と行動力に理太郎は若干、圧倒される。
「みんな、やる気満々だね。じゃら、俺らは、預かったカメラの使い方確認したり、配信テストしてみるから」
リーダーを含む3人の男の子が、ぷりんが用意してくれた機材の入った鞄を取った。
「なにかわかんなかったら、カメラの持ち主のぷりんってやつが対応するから、電話してみてくれ!英語はペラペラなはずだから」
「OK!」
残された理太郎にリーユーシェンが声をかけた。
「理太郎」
慌てたように振り返ってしまった。
「俺らはどうする?二人で合わせる?」
「……んー、そうだな」
ランチタイム。
買ってきてもらった屋台の食べ物をならんだ。
リーユーシェンは買ってきたマンゴーラッシーを満足気に飲んでいた。
食べながら、軽い打ち合わせをする。
リーダーが理太郎に声をかけた。
「案外、どの曲も完成度高いね。もうちょっと、楽器増やしてみる?」
「あー、そうだな。後半に弾きたい曲で増やしたいの、ある」
「じゃあ、みんな昼メシ終わって、みんな落ち着いたら、確認してみようか」
「あぁ、ありがとな」
ボソッと要望を伝えると、リーダーを中心とした人たちが、段取りをしてくれたり、アドバイスをしてくれたりしてくれた。
今までの人生の中で、理太郎は一番お礼を言っている気がした。
まだ名前も覚えれてない男の子が、理太郎に声をかけた。
「あ、そうだ。友達に見に来るように誘っとくね!」
「まぁ、でも、いいよ。そんなに知り合い誘わなくて」
「なんで?」
「まぁ、なんだ。あんま、知り合いとか、サクラとかじゃなくて、たまたまその場に通りかかった人をさ、いいな、聞いてみたいなって足を止めさせてみたいんだよなー」
理太郎の発言に、一瞬周りのみんなは固まった。
しかし、すぐにおぉーと声が巻き上がった。
「かっこいー!」
「自信満々だな!」
「いや、まぁ、そうなったら、いいなって話!」
理太郎は、思いの外、反応が大きかったため、恥ずかしそうに頭をかいた。
「始めて30分経っても、誰も立ち止まらなかったら、サクラ呼んでくれ」
理太郎は手早く食べ終わり、楽器を手にし、チラっと隣の部屋を覗いた。
ヤンイーイーがエレクトーンに向かい、必死に練習していた。
理太郎が部屋に入ってきたことも気づいていない。
理太郎は邪魔しちゃ悪いかなと思いつつ、近寄っていった。
「どう?」
「わっ、理太郎くんっ」
イーイーは目を丸め、手を止めた。
「驚かしてごめん。お昼ごはん、ちゃんと食べた?」
「うん。食べたよ。あ、えっと……このアレンジ、すっごいかっこいいね!」
イーイーが楽譜を指さした。理太郎がアレンジした一曲だ。
「サンキュー。弾きづらいとことかない?」
「ううん!ないよ!他の曲も、みんな弾きやすい!
ただ、テンポが速い曲は、まだ指がついていかなくて……」
「どころどころ、手抜いてもらってもいいし」
「やれるだけやるよ!あったほうが、絶対かっこいいし!」
理太郎が楽譜を覗き込んだ。
「この曲、一回弾いてみてくれる?」
「うん!」
自分も椅子に座り、二胡を構えた。
「いくよ」
ヤンイーイーは一生懸命演奏を始めた。
ほとんどの曲は二胡の前に自分の前奏から始まる。
前奏がつまづくなんてことの絶対にないよう、細心の注意を払って演奏しなければいけない。
やや固い、ヤンイーイーのエレクトーンに乗って、理太郎の柔らかい二胡の音色が入ってきた。
ヤンイーイーは、一瞬、体がふわりと飛んでいきそうになるが、こらえ、鍵盤を強く推した。
もっと、二胡の邪魔にならないように弾きたいのに、体が緊張してしまう。
1フレーズ弾くと、理太郎が声をかけた。
「あ、一回いい?」
「うん」
ピタっと演奏を止める。
理太郎が経つと、ヤンイーイーのほうへ歩いてきた。
「あ、そこ、違ったなー」
理太郎の長い腕が、ヤンイーイーのすぐ目の前を通り、左腕近くの鍵盤を押した。
音が鳴る。自分の心臓の音かと思った。
顔が近い。自分のすぐ右上にある。
理太郎の低い男性的な声が耳元で響いた。
「こんな感じでやってもらっていい?」
「……え?あ、うん!」
理太郎がきょとんとした顔で見てきた。ふっと笑う。
「少し、休憩しようか。デザートにシュークリーム買ったって言ってたけど、食べた?」
「あ、ううん。まだ……」
「食べといでよ。その間に楽譜書き直しておく」
「ありがとう。助かる」
イーイーは顔を赤くさせたまま、立ち上がると、隣の部屋へ急いで走っていった。
夜2時。
当たりは真っ暗になっていた。
微かに星空が見える。
「あーーーーーー!!練習足らなーい!」
誰かが叫んだ。
広い大学構内に響き渡る。
最後まで残ってた理太郎、リーユーシェン、ヤンイーイーをはじめ、数人の学生たちがぞろぞろと出てきた。
不安と疲労が入り交じった顔のヤンイーイーを理太郎が覗きこんだ。
「大丈夫か?ぶっ続けでやったから、だいぶ疲れたよな?」
「う、うん。でも、楽しかったよ!明日が楽しみで今日は寝れなさそう」
「俺も。家どこ?遠い?」
メガネをかけた男子学生が振り替える。
「あ、俺、バイクで来てるから、送ってくよ」
「え!?じゃー俺は!?」
隣でひょろっとした男の子が声を上げた。
「お前は走って帰れ」
ガーン!という顔をして、さっそく走るようにストレッチを始めた。
なんか懐かしいやり取りに少し、体がほころぶ。
理太郎はもう一度、空を見上げた。
青い夜空が広がっていた。
気分が高揚して、眠気も疲労も全く感じてなかった。
「明日か……」
結局、バタバタして、ぷりんたちに連絡できていなかった。
こんな時間にLINEでも送ったら、怒られるかな。
「んじゃ、俺らここで」
駐輪場に行くというメンバーが振り返った。
「あぁ、明日、よろしくな」
「がんばろうな!」