週末、祐吾のマンションへ来るなり奈々が聞いた。

「長期海外出張って本当?」

よもや自分が告げる前に奈々の耳に入っていようとは思いもしなかったので、祐吾はドキリとした。
じっと見つめられ、嘘はつけないなと思う。

「ああ、本当だ。」

「何で教えてくれなかったの?」

淡々と返事をすると、奈々は今にも泣きそうな顔で迫ってくる。

「お前の試験の邪魔をしたくなかった。」

正直に言えば、更に詰め寄ってくる。

「大事なことなのに…。ちゃんと言ってほしい。」

「言ったところで何も変わらない。」

「でも…。」

「奈々、ついてくる気なんてないだろう?」

そう言われて、奈々押し黙る。

ついてこいって言ってほしかった。
俺の側にいろって言ってほしかった。
あなたが望むなら、私は従うのに。

それは言葉にならず、代わりに涙が滲んだ。
奈々は唇を噛みしめながら、祐吾を睨む。
祐吾も不機嫌そうにソファに座って、奈々から目を逸らした。