そんな折、祐吾に辞令が出た。
ニューヨーク支店への長期海外出張だった。

いつかは海外出張もあるだろうと思ってはいたが、まさかこのタイミングで辞令が出るとは思っていなかった。
予定では八月から来年の三月までた。

「八ヶ月間か…。」

祐吾はデスクで一人呟く。

奈々をどうしようかと迷っていた。

八ヶ月も離れるのは耐え難い。
連れて行きたい。

けれど奈々は契約社員の試験を受けようと頑張っている。
連れて行くとしたら仕事を辞めさせなければならない。
もし辞めさせて連れて行ったとして、祐吾が仕事の昼間は一人で過ごすことになる。
それも奈々が可哀想だ。
異国の地での一人は不安が募るだろう。

だったら日本に置いて行くべきか。
八ヶ月後には日本に戻る予定なのだから。

どうにも結論が出ず、祐吾は海外出張の話をなかなか奈々に言えずにいた。

奈々はいつも通り「祐吾さん」と可愛い声と可愛い笑顔を見せながら寄ってくる。

愛しくてたまらない存在を手放したくない。
いつだって、手の届くところにいてほしい。
手を伸ばせば抱きしめられるこの距離にいてほしい。

祐吾が抱きしめれば、奈々は祐吾の背中に手を回してぎゅっとした。

「奈々。」

「なあに?」

呼び掛ければ無垢な笑顔を見せる。
大事な話が言い出せない代わりに、

「好きだ。」

という言葉で誤魔化した。
奈々はとびきりの笑顔で、

「私もだよ。」

と言った。

祐吾は胸がいっぱいになった。