パン生地を捏ね終わると三十分程発酵させる。
その間に洗い物などを済ませ、次の工程の準備をする。
奈々は手際よく動き、ふと手が空いて祐吾を見やった。

ソファにもたれ掛かりながら、真剣に文字を追っている。
伏し目がちな目が睫毛の長さを際立たせていた。
ページを捲る長い指も、すらりと伸びた手足も、少し癖毛のある髪も、綺麗で見惚れてしまう。

本当に素敵だなぁなんてずっと見ていたら、ふいに目が合った。

「何だ?」

「祐吾さんが素敵で見とれていました。」

奈々が正直に言うと、祐吾はふんと鼻で笑う。

本当なのになぁと思いながら、奈々はまたパン作りに戻った。

そんな奈々を、祐吾も時々優しい眼差しで見つめていた。