梅雨に入ったせいで変な天気が多い。
じめじめ蒸し蒸しとするこんな日は、パンを作るに限る。
と、奈々は強力粉を祐吾のマンションへ持ち込んだ。

「また何を持ってきた?」

「今日はパンを焼きます。高温多湿のときはパン作りにぴったりなの。雨だし、祐吾さんお出かけしたくないでしょ?」

そう言って、奈々は大きなカバンから麺棒やスケッパーを取り出し準備を始めた。

「祐吾さんも一緒にやる?」

試しに聞いてみると、案の定断られる。

「俺は焼き上がるのを楽しみに待つことにしよう。」

「焼き上がりまで最低でも2時間はかかります。」

奈々が胸を張って言うと、祐吾は「読書タイムだ」と言ってソファに腰を下ろした。

奈々は黙々とパン作りを始め、祐吾は読書に勤しむ。

特に会話はないが、二人でいるこの空間はとても心地よかった。