「奈々、お茶でも出さないか。」

「あ、はい。」

ぼんやりしていた奈々だったが、父親の言葉で現実に引き戻された。

「それから祐吾くん、夕飯でも食べていきなさい。」

「えっ…祐吾さん…大丈夫?」

突然の父親の提案に、奈々は心配そうに尋ねる。

「お言葉に甘えて、いただきます。」

祐吾は奈々の父親にそう告げた後、奈々の方を見て小さく頷いた。
それを見て、奈々はほっとしたような表情を見せ席を立った。

「私、夕飯の準備をしてきます。お父さん、祐吾さんに変なこと言わないでよ。」

奈々は父親に念押ししてから応接間を出て行った。
奈々が遠ざかったのを確認してから、父親が口を開く。

「突然呼び出してすまなかったね。」

「いえ、こちらこそ手土産も持たず申し訳ありません。」

祐吾がもう一度頭を下げると、やめてくれと制された。
奈々の父親はふうと大きく息を吐き出すと、優しい眼差しで祐吾を見る。