別に何をする気でもなかったが、まあベッドまで運んでやったお礼にキスくらいならしてもいいだろうと思い、倉瀬はそっと奈々に口付けた。

ふいに、目が合う。
あ、しまった。と思うと同時に、

「ひっ…ひゃぁぁぁぁ～！」

奈々の声にならないか細い悲鳴が倉瀬の耳に響いた。
真っ赤になって両手で頬を押さえている。

「…何だよ。」

「びっ、びっくり…して…。」

言いつつ、奈々は「あれ？」とまわりを見渡す。
自分の置かれた状況に意味がわからずキョロキョロし、困って倉瀬を見やれば倉瀬はクククと声を圧し殺して笑っていた。

「お前がソファで寝ていたからベッドまで運んでやったんだ。」

「…重かったでしょ？」

今度は青ざめた顔で倉瀬の反応を待っている。
気にするとこそこかよ、と思ったが、奈々の反応が面白くて倉瀬は意地悪く答える。

「腹いっぱい食べたしな。」

「あああ…。」

今度は頭まで抱えてしまった。
素直に反応する奈々がだんだんと不憫に思えてきて、倉瀬は

「バーカ、冗談だ。」

と言って奈々の頭をくしゃくしゃっと撫でた。