倉瀬を待たせていることもあって、奈々はささっとシャワーを浴びた。

ドライヤーで髪を乾かしながら、鏡で自分の顔を見る。
化粧も落としてしまったけど、素っぴんに引かれたりしないだろうか。
そう思いながら、洗面所やバスルームに女性の影が全くなかったことにほっとした。

噂で聞いていた倉瀬と奈々が自分で接して見てきた倉瀬は全く違った。
倉瀬を知れば知るほど素敵で立派な人で、だからこそ奈々は不安になる。

噂で聞く“女はとっかえひっかえ”という言葉が頭の片隅でくすぶる。
もしかしたら奈々は、たくさんいる”倉瀬の女”の中の一人なのではないだろうか。
誰かと比べられたりしてないだろうか。

そう考えてしまうことに、奈々は頭をブンブンと横に振る。
倉瀬はいつも奈々を優しく包んでくれている。
本当に幸せな気持ちでいっぱいなのに。
なのに何故だかこんなバカな考えが生まれてしまう。

それはたぶん。

本当に私でいいの?と、奈々には自信がないからだ。