テーブルの上にはたくさんの資料や参考書が開いた状態で置かれていた。

「勉強でもしてたんですか?」

「ん?まあな。」

付き合ってみてわかったことは、倉瀬は思った以上に努力家だということだ。

親の七光りで人生安泰、余裕綽々、将来の社長の座が約束されているとまわりからは思われている倉瀬。
奈々もそんなような噂話は何度か耳にしたことがある。
けれど倉瀬を知れば知るほど、実際はそうでもないのではと奈々は感じていた。

倉瀬自身、小さい頃から親の期待を一身に受けて育った。
それは今でも変わらず、まだ若いのに役職を与えられていることからも感じ取れる。

だが、トントン拍子に行くような話かといえば、そうでもない。
自分より年上や経験の長い人に比べたら、知識や経験が圧倒的に足りない。
それなのに上の立場になるためには、日々の仕事以外に自己啓発が必要不可欠である。
誰にでも認められるようになるためには、努力をするしかない。

飲みに行った時に、酔った倉瀬がぽろりと言ったのを奈々は覚えていた。
それ以外では何も言わないし、会社でもそんな姿は見せない。

応援したいけれど邪魔になってはいけない。
奈々は仕事の領域にはあまり踏み込まないようにしていた。