エントランスホール手前で部屋番号入力し呼び出しをかけると、ピンポーンと小気味良い音がする。

『はい』

インターホンから倉瀬の無機質な応答が聞こえた。

「奈々です。」

カメラに向かって言うが早いか、カチッとエントランスホールの鍵が開いて自動ドアが開いた。
中に入ると棟によってエレベーターの位置が違い、倉瀬の部屋は入って右手側のエレベーターだ。
エレベーターに乗り込むと、すでに倉瀬の部屋がある二十階のボタンが点滅していた。
奈々は初めこれにも目を丸くして驚いたが、インターホンとエレベーターが連動していると教えてもらいまた目を丸くした。
エレベーターを降りたら左へ進んで一番奥。

単純なようで複雑で、奈々は五回ほど倉瀬に付き添ってもらった。
その度に「いい加減覚えろ」と笑いながら頭をくしゃくしゃっと撫でられる。
申し訳ないなと思いながらも、ちゃんと付き合ってくれる倉瀬の優しさに、奈々は毎回嬉しくなって笑顔になるのだった。

玄関の前でもう一度インターホンを押す。
ガチャっと開いて、今度は倉瀬本人が出てきた。

「今日はちゃんと来れたな。」

「さすがにもう覚えましたよ。」

意地悪そうに言う倉瀬に、奈々は頬を膨らませる。


「お邪魔します。」

きちんと挨拶をし、慣れた足取りでリビングへ入った。