奈々は毎日あくせくと働いている。

庶務業務とは、課の取り纏めだけでなく雑用的なことまで何でもする。
他人から見ればいいように使われていると思われがちな部分も多くある業務内容。
だが、奈々自身は縁の下の力持ち的存在だと自負している。
自分が水面下で動くことによって、課員の業務効率が上がる。
派遣社員として働く奈々だが、あいにく専門的な知識等は持ち合わせていない。
そんな奈々にとって、それは自分ができる唯一の会社への貢献だと思っている。
だからどんなに理不尽なことを言われても、それが例え担当外だとしても、笑顔で対応するよう心掛けていた。

「奈々ちゃん、これ出しておいて。」

「わかりました。」

年配の男性は親しみを込めて”奈々ちゃん”とファーストネームで呼ぶ。
これもひとえに、奈々の人柄のせいだろう。
人当たりがよく愛想もいい。
よく働く。
それでいて控え目な部分は女性らしさを醸し出している。

奈々は男性から笑顔で書類を受け取り、慣れた手付きで封筒を出すと、さらさらと宛名を書いた。
封をしっかり閉じ、あっという間に郵便物が出来上がった。