「まだ続きがあってさ。」

朋子は勿体ぶるように言うと、更に声を潜めて言った。

「倉瀬さん、断ったらしいんだよね。」

『え~!』

「なんでも、倉瀬さんの彼女が嫉妬するからもらえない、とか。」

『きゃー!』

同僚たちの騒ぐ声が遠くで聞こえるようだ。
一緒に話を聞いていながらも、もう心ここにあらずといった奈々は、込み上げてくるものを抑えるのに必死だった。

彼女いたんだねー。
てか、見かけによらず彼女想いなんだー。
玉の輿逃したわー。

それぞれが勝手なことを言いゲラゲラと笑う。
いつもなら楽しいランチの時間は、苦痛で耐え難いものになってしまった。

それほどまでに倉瀬に対する自分の気持ちが大きくなっていることに、奈々はようやく気付いた。
気付いたけれど、もう手の届かないところに倉瀬はいるんだと思うと、ハンマーで頭を殴られたかのような衝撃に襲われる。

ほらやっぱり、いつかのあの人が倉瀬さんの彼女なんでしょう?