「俺を頼れよ。奈々。」

倉瀬の力強く真っ直ぐな瞳に、奈々は息を飲んだ。
月明かりの下、口元に笑みを称えながら奈々を見据える。

自分勝手で強引で。
なのにそれが嫌じゃないなんて思ってしまったことに奈々は認めたくない気持ちでいっぱいだ。
それに“奈々”と名前を呼ばれたことに動揺してしまって、頬が熱くなるのを感じる。

自分の気持ちが揺れ動いていることに気付くまで、そう時間はかからなかった。
心臓が痛いほどにドキドキしている。

どうしよう、こんなにもドキドキするなんて。
私、どうしちゃったの。

奈々は倉瀬から目を逸らし、動揺が悟られないようにじっとスマホの画面を見つめていた。
あまりの心臓の高鳴りに、顔を上げることは到底できそうになかった。