朋子達が楽しそうにおしゃべりに花を咲かせる中、奈々は黙々と料理を食べていた。
適当に相づちをし、一応参加してますよという雰囲気だけ醸し出す。
揚げ出し豆腐を食べながら、このお出汁真似したいな、調味料何だろう等と考えていた。
奈々が物思いに耽っていると、ふいに声をかけられる。

「奈々ちゃんは美味しそうに食べるよね。」

「これ?美味しいですよ?」

馴れ馴れしく名前で呼んでくるこの男性の名前は何だっけ?
食べることに夢中になりすぎて、最初に自己紹介されたのに男性陣の名前が記憶の彼方に追いやられている。

「俺、ご飯を美味しそうに食べる子タイプだな。」

「はあ。美味しいのはいいことですよね。」

「確かに、奈々ちゃんは幸せそうに食べてるよね。」

「そうでしょうか。」

適当に答えているのにどんどん食いついてくる彼に、まわりも参戦してきた。
無理に盛り上げてもらわなくてもいいのに。
奈々以外はお酒も入っているからか、みんな陽気で楽しそうだ。
そんな状況に、奈々は早く帰りたくて仕方がなかった。

早くデザート来ないかな?
それ食べたらソッコーで帰る。

奈々を繋ぎ止めているのは、もはや食い意地だ。