倉瀬なんてどうでもいいと自分を納得させようとするが、どうにも気になって頭から振り払うことができない。

倉瀬と腕を組んでいた彼女はとても甘えた様子だった。
あれが彼女じゃなければ何だというのだ。

その光景が目に焼き付いてしまって消すことができず、奈々は深くため息をついた。
見ていられなくて思わず逃げたことに激しく後悔の念がわく。

「私と倉瀬さんは何でもないんだから。」

口に出してみると、虚しさが大きくなった。
倉瀬は奈々にキスをしたが、その後は何もない。
謝罪はおろか言い訳すらしない倉瀬に、奈々はひとつ結論付けた。

倉瀬にとっては自分もたくさんいる女の中の一人でしかなく、遊ばれたのだ。
だから本気にしてはいけない。
勘違いしてはいけない。

なのに、モヤモヤするこの気持ちは何だろうか。

心にふつふつと湧き上がる黒い感情に胸が締め付けられる思いがした。
鼻の奥がつんとして、気を抜くと涙が出そうになる。

ちょっと足を伸ばして買い物に来たのが間違いだった。
もうどうでもいい。
一刻でも早く家に帰ろうと、奈々は足を速めた。