本当にどうしたというのか。
倉瀬は自分の気持ちに未だ戸惑っていた。

女なんて勝手に寄ってくる。
いつだって適当に遊べるし適当に別れられる。
倉瀬は今まで何不自由しない生活をしてきた。
それはこれからも続くのだろうと疑っていなかった。

なのに。

まさか自分がこんなにもひとりの女に心奪われる日がこようとは、思っても見なかったのだ。

西村奈々という存在が、倉瀬の心を掻き乱して仕方ない。
あの日、倉瀬は彼女の花が咲いたかのような笑顔に釘付けになってしまった。
真面目に仕事をこなし誰にでも丁寧で親切で、倉瀬にも物怖じせずに意見する。
決して女を使うことなく、媚びることもなく、自然体で倉瀬に接してくる奈々を、いつしか倉瀬は“愛しい”と思うようになった。

衝動的にしてしまったキスも後悔はしていない。
彼女があまりにも愛しく思えて体が勝手に動いてしまった。
こんな気持ちになるのは初めてのことなのだ。

今だって、どうでもいい女と一緒にいるところを見られるのが嫌だった。
奈々には清廉潔白なところを見せたい。

「この俺が?マジかよ。」

漏れ出た声に、倉瀬は苦笑いした。
だが足は勝手に奈々を追いかけていた。