「私の方がお礼しなきゃなのに…。ありがとうございます。倉瀬さんって優しいんですね。」

奈々が素直な気持ちを伝えると、倉瀬は目を見開いて驚いた。
優しいだなんて記憶の限り言われたことがない倉瀬は、戸惑ってしまう。
そういえば自ら人を手伝ったり労ったり、今までしたことがあっただろうか。
考えてみるが何一つ思い浮かばず、余計に自分の行動に疑問を感じた。
見かねて手を貸しただけだ、そう思いたいのにそう結論付けるには何かしっくりこない。

そんな倉瀬の気持ちなど露知らず、奈々は上目遣いでニッコリと微笑んだ。
奈々の素直な気持ちと穏やかな笑顔に、倉瀬は心にふわっとした感情が芽生えるのを感じた。

「今度は私が飲み物を奢りますね。」

イチゴミルクを飲みながら甘い香りを漂わす奈々が妙に愛しく見える。

小さな口で上品にストローを咥える姿。
髪を耳に掛ける仕草。
瞬きをしたあと倉瀬を見て優しく微笑む姿。
女性らしく可愛らしい声。
穏やかな口調。

たまらなく、自分のものにしたいという衝動に駆られた。

「いや、お礼なら今もらう。」

「えっ?」

言うが早いか、奈々に暗い影が落ちてきた。
顎をすくわれたと思った瞬間、気付いたときには唇を塞がれていた。

それは、イチゴミルクよりも甘いキスだった。