外はもう真っ暗だ。

「おい。お前はお人好しか。」

背後から声をかけられて、奈々はビクッと体を震わせて振り向いた。

「その仕事、お前の担当じゃないだろう?そんなもの、ミスしたやつにやらせればいい。」

倉瀬が奈々の手元の伝票を覗きこみ、怪訝そうな顔をする。

「そう…ですけど。でも緊急ですし、担当者も不在でしたのでまずは相手先に迷惑をかけないことが重要だと思って。」

奈々の言葉に、倉瀬は深いため息をつく。

「お前が怒られることはないだろう?」

「それは仕方ないですよ。取りまとめたのは私ですし、私は課の窓口の仕事をしていますから。代表で怒られることも仕事のうちです。伝票はメインの担当ではないけど、私もやっている仕事のひとつだし。心配してくださってありがとうございます。」

真面目な顔で説明したかと思うと、最後は微笑みながらお礼まで言う奈々に、倉瀬はまたひとつため息をついた。

「あとこれだけか?」

倉瀬は奈々のデスクの上にある走り書きされたメモ用紙を手に取る。

「え?あ、はい。」

「じゃあ、半分な。」

そう言って倉瀬は勝手にメモ用紙を半分に破ると、片方を持って自席に戻った。
そしてカタカタとパソコンを打ち始める。
残りの修正伝票はあと数件ではあったが、どうやら手伝ってくれるらしい。

案外優しいところもあるんだと、奈々はパソコンに向かう倉瀬を申し訳なさそうに見つめてから、自分も残りの作業に取り掛かった。