奈々が帰ってから、祐吾のスマホに着信があった。
相手は智也だ。
そういえば日本に帰ってきたことを伝えていなかったなと思い出す。

「よう。どうした?」

「祐吾、そろそろ帰ってきてるか?」

「ああ、日本だ。」

「奈々ちゃん元気か?」

いきなり奈々の心配かよ、と思いつつもさっきまで一緒にいたと伝えると、よかったと返された。

「何かあったのか?」

「いや、先月病院で奈々ちゃんを見かけたからな。」

「お前の勤務先の病院か?」

「ああ、そうだ。」

智也の勤務先は祐吾の会社の近くの総合病院だ。
確か奈々は正月明けからずっと風邪を引いていると言っていた。
それで病院へ?
いや、おかしな話だ。
奈々の家から智也の勤務先の総合病院までは、電車かバスで行かなければならない。
いくら職場から近いといっても、奈々の定期券の範囲ではない。
風邪くらいなら近所のかかりつけで十分だろう。

「どういうことだ?」

「知らないよ。とにかく体調悪そうだったから声はかけなかった。会計待ちしてたしな。」

「俺がいない間、ちゃんと奈々のこと見とけよ。」

「アホかお前は。だからこうして報告してやってるんだろうが。ありがたく思えよな。まあ、元気そうならよかったよ。」

そう言って、智也の電話は切れた。

祐吾は考える。
今日の奈々はいつも通り元気だった。
特に変わったところはなかった。
いや、少し痩せた気がした。
だが奈々は何でもないように笑っていた。

わからない。
何かあったのだろうか?