家の近くに産婦人科がないので、少し離れているが会社近くの総合病院の産婦人科を予約した。
ここなら仕事は午前休にして、診察が終わってから出勤できる。
朝一番の診察の予約が取れたので、時間的にも余裕だろう。

だがその朝に、トイレで出血が見られた。

取り乱しそうになるのを辛うじて抑えながら、奈々は病院へ急いだ。
受付で症状を伝えるとすぐに診てもらえることになり、奈々は診察室へ入った。

医師から伝えられたのは”流産”だった。
幸い自然流産だったので特に処置はなく、体へのダメージも少ないとのことだった。

青ざめている奈々に、医師は優しく言う。

「こればっかりは、何が悪いとかはないからね。それだけ妊娠するということは奇跡なんだよ。大丈夫、きっとまた赤ちゃんきてくれますよ。」

そう言われても、ショックで何も考えられなかった。

会計を待っているときもどこか上の空で、どうやってお金を支払ったのか、どうやって電車に乗ったのか、どうやって自宅へ戻ってきたかもわからなかった。
出勤することも忘れ、上司から確認の電話が掛かってきた記憶はあるが、どう受け答えしたのかわからない。
それほどまでに動揺していた。