祐吾が海外へ旅立つ日、奈々は契約社員のSPI試験日だった。

見送りにいけないのが悲しいけれど、逆にその方がよかった。
空港で見送ってしまったら、きっと笑顔で送り出すことが出来なかっただろう。

私は私のことを頑張る。
だから、祐吾さんも頑張ってね。

試験会場に向かう道すがら、奈々は空を仰いでそう呟いた。

祐吾から、インターネットでできる模擬試験をひたすらやれ、試験環境に慣れろ、と言われたことが項をなしてか、SPI試験は手応えがあった。

数日後、課長に呼ばれSPI試験が合格したことを告げられた。
あとは面接のみだ。
課長から、「西村ならたぶん大丈夫だろう」とお墨付きをもらい、奈々はひとまずほっとした。

隣の席の朋子が、そわそわしながら奈々に話し掛ける。

「奈々、もしかしてその指輪、倉瀬さんから?」

「うん…そうなの。」

奈々の左薬指にキラリと光る指輪を見つけて、朋子が興味津々とばかりに聞いてくる。
会社に付けていくかどうか迷ったが、祐吾が「お守りだ」と言ったのでずっと身に付けることにした。

「マジ愛されてるわ!」

朋子が囃し立てるので、奈々は恥ずかしくなって頬を染めた。

ニューヨークとの時差は約十三時間。
日本が朝なら向こうは夜だ。
なかなか電話のタイミングも難しい。

でも、大丈夫。
あなたが帰ってくるまでに、私はもっとあなたに見合う彼女になるからね。
祐吾さんに負けないように頑張るんだから。

奈々は左薬指にぴったりとはまったキラキラ輝く指輪を見つめながら、そう誓った。